眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。
「貴方は研修からやり直しましょう。うちの会社で、秘書業務から離れていた人たち様に講習会や研修があるから、そこで一から勉強し直してちょうだい」
私は、夏を前にまた無職になってしまうことが確定してしまった。
崎田さんだってはっきり言っていたもんね。派遣の秘書なんて恥ずかしいとか、もっと綺麗な人がいいとか。
私なんかが眞井さんの横に居たら、似合わなさ過ぎて反感を買うのは当たり前だ。
王子様の隣には、美しいお姫様がお似合い。
私が隣に居たら、夢を壊すなと怒られる。
でもごめんなさい。私は夢を見ていたの。
初めて会った日に、魔法の靴を履いてしまったから夢を見てしまった。
その夢を現実みたいに思って舞い上がってしまったんだ。
会社に向かう電車の中、視界が滲む。
誰もいない場所に座って俯くと、眼尻から鼻に伝って涙が落ちていく。
電車が揺れるたびに涙が零れるので、化粧がきっとボロボロに違いない。
化粧が崩れたら、もっと周りから何か言われるのかもしれない。
そう思うのに、涙は止まらなかった。