秘密の糸Season1㊤
ドサドサドサ


持っていたゴミ袋を思わず落としてしまった。


井上さんの足が、私の足に挟まれた。


「別に。欲情したから。だから、した。」


そう言った井上さんの目は、あの病室の時と同じ目をしていた。



(だけど…!負けちゃいけない…!)



私は、井上さんの目をキッと睨んだ。
 


「そんな嘘、やめてください。」



優しい井上さんが、あんな事するはずない。



きっと何か理由がある…。



「嘘じゃねーよ、俺だって欲情くらいすんだよ。
何なら今、ここでしてやろうか?」


そう言うと、井上さんはさっきよりも顔を近づけてきた。


「…井上さんは、こんな事する人じゃないって分かってま
す。
井上さんはいつだって、私を側で支えて下さっていました。
厳しいけど、本当は誰よりも優しい人だって分かってます!
今だって何か理由があるから、わざとそんな嫌われるような事してるんですよね?」


「…そんな訳ねーだろ。あーあ、何か萎えたわ。」


「井上さん!」


「ゴミそこに捨てたらお前、休憩だから。」


井上さんは吐き捨てるように言って、



…そして帰って行った。


私は、帰って行く井上さんの後姿を見つめた。


(こんな、ギスギスした関係やだよ…
前の関係に戻りたいよ…。)


私は心の中で、そう強く願った。
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