スノーフレークス
「実はあれは冥府の観音菩薩様から仰せつかってやっていることなの。慈悲深い観音様のはからいで、人里に人間が住み始めて以来、私たちは死の断末魔にある人間を苦しみから解放してきたのよ。私たちはそれを『送り』と呼んでいるの。昔は雪山で遭難した人間を迎えにいったものだから、私たちは人間を殺める妖魔だと思われているけど、本当はあの世とこの世の連絡係なのよ。だって、むやみに人を殺したってなんの得にもならないでしょ。例えば、幽霊はこの世に未練があるから人間にとり憑くわけだし、吸血鬼は人間の血液が栄養源だから人間に噛みつくわ。妖魔が人を害するのには往々にして理由があるけど私たちにそんな事情はないもの。別に人間の精気を吸って生きているわけじゃないし」
「雪の降る時季しか送りをしないのなら、それ以外の季節は観音様のご慈悲にあずかれないのですか」
「いいえ。きっと観音様はその他の場面でも別の手段を使って慈悲の手を差しのべておられるはずよ。ただ、私たちが関わる季節が冬なのよ。それ以外の季節はお務めが無いから悠々と過ごしているわよ。湿度の高いこの地方は冬も寒いけど夏場だってそれなり蒸すから、翠璃の学校が夏休みに入ったら避暑地に出掛けるのよ。軽井沢の別荘に行くこともあれば、スイスや北欧のリゾート地に行くこともあるわ。登校日も娘を休ませて、だいたい一ヶ月半くらい避暑地に滞在しているの。この子の体も心配だしねえ」
「うわぁ、いいなぁ! リッチですねえ」
避暑地に別荘を持っているなんてなんとゴージャスな家族なんだろう。私のような庶民にはヨーロッパのリゾート地がどんな所なのか想像もつかない。
「葵ちゃんだって夏休みは沖縄に遊びにいかないの? おばあちゃんちがあるって聞いたわよ」
「いえ。沖縄には何年かに一回しか帰らないんです。沖縄に行くにはものすごく旅費がかかるし、うちの母さんも病弱ですから」
「そう。じゃあ、いつか葵ちゃんをうちの別荘に招待できればいいわね」
傍らで氷室さんもうんうんとうなずいている。私をそんなすてきな場所へ招待してくれるなんてすごくうれしい話だ。
「でも来年の夏は受験だから無理ですよね」
「そうよねえ。本当にいつになるかわからない話なんだけど」
晶子さんは首を傾げている。
「日向さんは高校を出たらどうするつもり?」
氷室さんがたずねてくる。
「雪の降る時季しか送りをしないのなら、それ以外の季節は観音様のご慈悲にあずかれないのですか」
「いいえ。きっと観音様はその他の場面でも別の手段を使って慈悲の手を差しのべておられるはずよ。ただ、私たちが関わる季節が冬なのよ。それ以外の季節はお務めが無いから悠々と過ごしているわよ。湿度の高いこの地方は冬も寒いけど夏場だってそれなり蒸すから、翠璃の学校が夏休みに入ったら避暑地に出掛けるのよ。軽井沢の別荘に行くこともあれば、スイスや北欧のリゾート地に行くこともあるわ。登校日も娘を休ませて、だいたい一ヶ月半くらい避暑地に滞在しているの。この子の体も心配だしねえ」
「うわぁ、いいなぁ! リッチですねえ」
避暑地に別荘を持っているなんてなんとゴージャスな家族なんだろう。私のような庶民にはヨーロッパのリゾート地がどんな所なのか想像もつかない。
「葵ちゃんだって夏休みは沖縄に遊びにいかないの? おばあちゃんちがあるって聞いたわよ」
「いえ。沖縄には何年かに一回しか帰らないんです。沖縄に行くにはものすごく旅費がかかるし、うちの母さんも病弱ですから」
「そう。じゃあ、いつか葵ちゃんをうちの別荘に招待できればいいわね」
傍らで氷室さんもうんうんとうなずいている。私をそんなすてきな場所へ招待してくれるなんてすごくうれしい話だ。
「でも来年の夏は受験だから無理ですよね」
「そうよねえ。本当にいつになるかわからない話なんだけど」
晶子さんは首を傾げている。
「日向さんは高校を出たらどうするつもり?」
氷室さんがたずねてくる。