スノーフレークス
「その湧水寺ってそんじょそこらのお寺とは違うわね。私たちの方こそ、澁澤君て子には注意した方がいいかもしれないわよ。彼にあなたの存在をこれ以上怪しまれたら厄介なことになるわ」
 晶子さんが娘に言う。

 澁澤君は私に氷室さんには近づくなと言っていた。でもそのことは晶子さんたちには言わなかった。彼の方から氷室家に妖怪退治を仕掛けるなんてことはないと思うけど、余計なことは言わない方がいい。

 帰りは、晶子さんがフォルクスワーゲンで私を家まで送ってくれた。車には氷室さんも同乗してくれて、三人で楽しくおしゃべりをしていたらあっという間にうちに着いた。

 学校では主要五教科だけ補習があって、クリスマスの頃に冬休みに入ることになっている。補習期間の週末に氷室さんもうちのマンションに遊びにくることがあった。両親は命の恩人である彼女を大歓迎した。

 氷室さんはラルフ・ローレンのアーガイルニットにスコッチチェックのスカートという、大人のうけが良いかっこうでやってきた。それにとびきりの美少女だから、父さんなんかすっかり彼女のファンになってしまった。
 ちょうどお昼時だったので私は冷麺をふるまった。短冊切りにした卵焼きやキュウリ、金華ハム、木耳が載っていて、甘じょっぱいタレがかかった本格的な冷麺である。
 真冬にそんなメニューを作ったものだから、同席していた父さんと母さんがびっくりしていたけど、氷室さんは大喜びでそれを食べていた。デザートに出した手作りの柚子シャーベットも彼女は気に入ってくれた。
 
 終業式が迫ってきたある日、私はいつものようにESSに顔を出した。
 各教科で配られた大量の宿題に今から手をつけておかないと年明けの始業式までに間に合わない。私は自分の苦手な分野を選んでクリスと手島君に質問をした。いつもながら彼らは家庭教師も顔負けの明解なレクチャーをしてくれる。

 クリス部長はどこからかコーヒーメーカーやティーポットを持ち込んで、ミニ喫茶店を開いてくれる。この日、私は今年最後の差し入れとしてシナモンロールを焼いていき、皆で熱々のコーヒーといっしょに味わった。

 校舎の中にいる間に雪が降った。帰宅する私が生徒玄関を出ると、前庭一面が白い雪で覆われている。朝天気予報を聞いて、防水シューズを履いてきたのは正解だった。
< 58 / 85 >

この作品をシェア

pagetop