スノーフレークス
 私は植え込みに近づくと南天の赤い葉の上に積もった雪片を指ですくってみせた。葉っぱが揺れて白い雪がはらりと地面に落ちた。

「日向さん」
 背後から声をかけられた。澁澤君の声だということがすぐにわかった。
 ダッフルコートを着込んだ彼が私に近づいてくる。この補習期間は授業が半ドンで終わるから、部活の練習が終わるのもその分早くなる。彼もいつもより早く部活の練習を終えて帰宅しようとしている。
 このところ彼は忙しかったみたいで一週間ほど第二の部室の方には顔を出さなかった。久しぶりに彼の姿を見て私の胸が高鳴る。
「こんにちは」
 私が挨拶をすると、彼はぶっきらぼうな調子で軽く頭を下げる。
「君はよそから来た人だから雪が物珍しいんだな」
 澁澤君は私の様子を見ていたようだ。
「ええ。だって横浜では雪が降ることなんて滅多になかったことだもの。子どもみたいになんだか気分がわくわくするわ」
「いかにも君らしい言葉だね」
 澁澤君は南天の葉を指で弾く。
「暖かい土地では物語や絵の中で雪景色が美しく描かれたりする。梅の花に積もる雪の美しさを詠む歌人がいるくらいだ。でも、僕ら雪国の人間にとって雪はそんなに美しいものじゃないんだよ。日常生活に支障をきたす厄介ものであり、時には恐ろしい自然災害を引き起こす脅威なんだ。今日みたいに雪が降っても僕は君のような気分にはならないね。この程度の雪はまだ序の口だ。今月の終わりから二月の頭にかけて鬼の仇と言わんばかりに大雪が降ってくるよ」
「そう。じゃあ、雪に慣れていないよそ者の私は大変だわね。雪が積もっている間は自転車通学もできないし、ベランダにお洗濯物も干せないし」

「日向さん、ちょっといい? 話があるんだけど」
 澁澤君が本題に入ってくる。
「いいけど」
 彼が私に一体何の用があるのだろう。
「最近、同じクラスの氷室さんと仲良くしているんだね」
 彼の声は心なしかいつもより低い。
「ええ、そうよ」
 私は認めた。学校でも氷室さんとは前よりもよくしゃべるようになった。
「余計なお世話かもしれないけど、彼女には近づかない方が身のためだという忠告をもう一度させてもらうよ」
 私が反論しようとする前に彼が言葉を重ねる。
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