スノーフレークス
「彼女に近づいてはならない理由を言わないと納得しないよね? いくつか不思議な体験をした今の君ならわかってくれると思うけど、彼女は人間をかどわかす魔物なんだ」
「知っているわ。雪女なんでしょ」
 私は氷室さんの正体を口にした。
「そうだ。それを知っていて何故付き合うんだ。彼女は妖術を使って人を殺めるんだぞ!」
「だって、氷室さんは友達だもの。妖怪だろうが何だろうが友達なんだもん」
「ああ、何てことだ! 君は彼女のことがわかっていない」
 澁澤君は額に手を当てる。
「氷室さんは普通の人間とはちょっと違うけど、決して人を傷付けるようなことはしないわ。澁澤君の方こそ彼女のことを誤解している」
「君だって見ただろう? あの吹雪の夜にあいつらがおばあさんを殺しているのを」
「違うの! あれは人殺しなんかじゃないわ! そもそもあなたはあの現場にいなかったでしょ! 憶測だけでものを言うのはやめてちょうだい! 氷室さんたちはあの時、死者の魂をあの世へ送ろうとしていたのよ! 私が見たのはおばあさんの肉体ではなくて魂の方だったのよ!」
 私は澁澤君の誤解を解こうと一生懸命説明する。
「そうだとしても何であいつらが死人の魂に付き添う必要があるんだ」
「澁澤君、お願い聞いて。氷室さんは私に自分たちがやっている『送り』のことを説明してくれたのよ」
「送りだって?」
 訝る澁澤君に、私はこれまでに氷室家の人々から聞いた雪女についての話を伝えた。雪女の実態や「送り」の意義について、私なりに順序立てて論理的に説明してみた。

 話を聞き終えた澁澤君は腕を組んで何やら考えているようだ。
「なるほど。君の話では、氷室さんと母親は観音菩薩様の命で、死者の魂を冥途に送っているというわけだな」
「あなたのお寺は観音様とは関係ないの?」
「うちの宗派と観音菩薩信仰は直接関係ないな。でも、彼女たちは神仏の類に当てはまるのではなくてその分類はあくまでも妖だ。あれが御仏の仲間なら僕だってこんなに恐れることはないさ。観音菩薩は仏たちの中でもとりわけ慈悲深い菩薩だから、おそらく妖の手を借りて人間の魂を苦痛から解放しているのだろう。なんとも不思議なことだ」
「あなたはどうしてそんなにあの人たちを忌み嫌っているの? 池の一件があった時からあなたは氷室さんのことを警戒していたわ」
 私はもう一歩踏み込んでたずねた。
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