愛しの許嫁~御曹司の花嫁になります~
「え? 鷹野部長が?」

 信じられない。失敗知らずで完璧なのに――?

 だからこそ、失敗したという話を聞くと、鷹野部長みたいに完全無欠な人でも失敗はあるんだと、少し親近感が沸いた。

「それにしても、今回、急遽日本に転勤になって、こうして茜ちゃんと再会できて嬉しいよ」

 鷹野部長の純粋な笑顔に私の胸がチクリとする。実家のことを話せない自分に後ろめたさを感じながら、ゆっくりと時間が過ぎていった。

 許嫁……か――。

 もやもやとしたものが邪魔して、味は最高に美味しいはずなのに、せっかくの柔らかい肉をあまり堪能することができなかった。

 実家のことをあれこれ聞かれたらどうしようかと、いまだにドキドキしている。食事もちょうど終わって、外を見ると、なんとか雨は止んだようだ。

 するとその時、鷹野部長のスマホに着信が入る。

「いいんです。私に構わず出てください」

「あぁ、すまない。仕事の電話みたいだ」

 そう言って、鷹野部長はバツが悪そうに手のひらを立てる仕草をして電話に出た。
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