愛しの許嫁~御曹司の花嫁になります~
 複雑な顔で私がアジを口に放り込んだその時だった。食堂の出入り口から鷹野部長と水菜さんがふたりで入ってくる姿が遠くで見えた。その姿を見ていた私の視線に気づいた田辺君も、その方へ向く。

「あぁ、鷹野部長? かっこいいよなぁ……同性から見ても、あのかっこよさは反則だよな。鷹野部長が戻ってくるまでは、営業課で俺がイケメンナンバーワンだったのにさ」

 田辺君がブーと口を尖らせて言うと、その姿が子供っぽくてつい笑ってしまった。

「鷹野部長は仕事もできるし、頼りになるし、なんせ優しいけれど厳しい面もあって、メリハリがあるっていうか……」

「ずいぶんベタ褒めするんだね」

「あったりまえ! 俺、鷹野部長みたいに仕事できる人間になりたいから」

 そんなふうに純粋に上司に憧れることができる田辺君も、本当はものすごく素直な人なんじゃないかと思う。

「そういえば、鷹野部長って、大手金融会社の会長の息子だろ? 御曹司で、学歴も仕事もできてリア充で、羨ましい!」

 え……? な、なんて――?

 田辺君の口から出た言葉に、私の笑顔が思わず凍りついた。

 大手金融会社の会長の息子――?

 リア充って――?
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