愛しの許嫁~御曹司の花嫁になります~
「ただいま、お父さん、お母さん」

 家に帰ってきたらまず、両親の遺影に手を合わせるのが日課。八畳ひと間の中央には、小さなちゃぶ台がぽつんと置かれている。物が少ないせいか殺風景だけど、よく言えば綺麗に片付いて見える。

 明日会社に着ていくブラウスにアイロンかけて、お風呂入ったらご飯食べよっと――。

 秘書課の人たちはいつも小奇麗にしていて、ブランドのバッグや財布、時計なんて当たり前だ。私も一応会社でブランド品を身につけているけれど、すべて母親譲りのもので、自分で買ったことなんてない。無いものを見繕って、見栄を張って、時に気疲れしてしまうこともある。けれど、会社の人たちに自分の生活がバレたら、きっと私を蔑んだ目で見るに違いない。だから私はお姉さま方に合わせるべく必死に気を遣っていた。

 鷹野部長は明日、会社に戻って十時から会議、休憩時間にお茶をだして――。

 先ほどコンビニで買ったおにぎりを頬張り、明日の仕事の段取りを手帳を見ながら、鷹野部長がいったいどんな人なのかという期待を膨らませた。
< 6 / 100 >

この作品をシェア

pagetop