愛しの許嫁~御曹司の花嫁になります~
 どうしよう――。

 薄暗い、擦り切れた畳の部屋の隅で、私は膝を抱え込んでいた。先程までの浮かれた気持ちとは裏腹に、今、私はポストの中に入っていた手紙を前に途方に暮れていた。

 時刻は二十時を回っている。

 その手紙はこのアパートの大家からのもので、家借人に危険が及ぶ老朽化のため、取り壊しの対象物件となり、三ヶ月以内に立ち退いて欲しい。というような内容だった。

 そんなこと急に言われたって……どうしよう――。

 不動産に連絡しなきゃ――。

 そんなふうに思っていた時だった。コンコンとドアがノックされる音がして、鷹野部長が来たのかと思い気持ちが焦る。

 ど、どどどうしよう、もう来ちゃった――?

 身なりを整え、深呼吸する。

「はい! 今開け、ま……あなたは――」

 鷹野部長と思って勢いよく開けたその先には、先日うちに来た消費者金融の木下だった。

「ご在宅でしたか、よかった」

 ニヤニヤと虫酸が走るような、いやらしい笑みを口元に浮かべて、木下はクイッと眼鏡のブリッジを押し上げた。色白でひょろっとした体格で、相変わらず好感が持てない人だ。
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