愛しの許嫁~御曹司の花嫁になります~
「あ、あの……」

 心配になって私が声を掛けるも、水菜さんはまるで私の声など耳に入っていないようで、続けてどこかに電話をかけ始めた。

「もしもし? 鷹野部長ですか? 北島です」

 水菜さんの横顔は焦り顔でいつものスマイルの影もない。そんな様子から、私は部長になにかあったのだとすぐにわかった。

「え? いつものハイヤーじゃなかった? 申し訳ありません、こちらで確認いたします。はい、はい、わかりました。そのように伝言いたします」

 そう言って水菜さんが電話を切ると、ハァァと受話器を押さえつけて深々としたため息をついた。

「鈴本さん……」

 水菜さんがゆっくりと俯いた顔をあげると、私に言った。
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