天使の傷跡
お料理が好きだったというお祖母様の影響で、キッチンだけは今時の最新鋭のものが揃えられていた。
けれど、見るからにそこが使われている形跡はほとんどない。
曰く、やろうと思えばそれなりのことはできるのだが、時間さえあれば仕事をしているか本を読むかばかりで、わざわざ自分のために作ろうという気がおきないらしい。
だから専ら外食か、酷い時は食べないこともあるとか。
思えば課長におにぎりを渡すようになったのも、多忙な彼が不摂生な生活を続けているのが心配になったからだった。
そんな私が彼が家でも大差ないのだと知ってしまえば、思わずお節介を焼きたくなってしまったのはある意味自然な流れだったのだと思う。
深くを考えず、純粋に上司の体を心配しての行動だったのだけど…よくよく考えれば、微妙に関係が変化した今の私達にとっては余計なことだったと気付いたのはすぐ後のこと。
けれど自分から言ってしまった以上、激しく後悔したところでもう遅い。