天使の傷跡

「握り飯の時も思ってたが、お前は何を作ってもうまいんだな」

今朝も何も食べていなかったという課長は、渡すなりすぐにテーブルに移動してがっつき始めた。

「そんな、課長はいつも大袈裟すぎますよ。何の変哲もない、普通の家庭料理ですから」

今日持って来たのはきんぴら牛蒡になすの揚げ浸し、それに昨日作った炊き込みご飯の残りだ。どちらかといえば、若さに欠けるメニューばかり。
基本和食が好きな私らしさ全開で、色気の欠片すらない。
今度はもっとがっつりした肉料理なんかにした方がいいのだろうか。

「…いや、そういう普通こそが一番幸せなんだよ」

「え?」

その言葉は、こちらが受け止める以上に実感がこもっているように思えた。

彼なりに何か思うところがあるのかもしれない。
そう思ったけれど、それ以上深入りすることは決して自分のためにはならないと、そのことに触れるようなことはしなかった。

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