天使の傷跡
「まぁもっと欲を言えば、そこのキッチンに立って優花が料理をしてくれたら最高なんだけどな」
からかいも悪意も全くない純度100%なその願いは、私の中にあった怒りを粉々に打ち砕いていく。
その代わり自分の中を埋め尽くしたのは、やり場のない羞恥心だ。
こうなってしまってはもう私にできるのは口を噤んで目を逸らすことだけ。
どんな反論も彼の手中で踊らされてしまうのは目に見えてる。
真っ赤な顔で横を向いた私に課長が肩を揺らす。
あぁ、どうして私はこんなにわかりやすく反応してしまうのだろう。
こんな、突っ張ることですら相手を喜ばせてしまうようなわかりやすい反応を。
「うん、今日もほんとにうまかった。いつもいつもありがとうな」
「…いえ、こんなものでよければいつでも」
ってほら! 言ってる傍から余計な事をってしまってるじゃないか。
案の定、課長の顔が一面喜色に染まっていく。
「ありがとう。嬉しいよ、ほんとに」
それでも今の私にとって、どんなときでも感謝と喜びを真っ直ぐに伝えてくれる彼のために、自分にできる範囲のことなら何でもしてあげたいと思ってしまう気持ちから目を逸らすのは、とても難しいことだった。