天使の傷跡
自分の家だと思って…のくだりは明らかに他の狙いも含まれているのがわかったから聞こえないふりを通したけれど、それでも何でもないことのようにそう言ってくれることが私には嬉しかった。
そう、嬉しかったのだ。
「危ないよねぇ…」
どう考えてもこの状況はまずいと自覚している。
こんな、当たり前のように自然体で彼の傍にいることに。
「何が危ないんだ?」
「…えっ?」
ハッとして横を見れば、顔を本からこちらに向けた課長が不思議そうにしている。
「…私、何か言いました?」
「あぁ。何の前触れもなくいきなり『危ないよねぇ』って」
「!!」
ま、まさか。心の声が漏れていた?!
「ほ、ほんとですか? 全然気付いてませんでした。なんでいきなりそんなこと言っちゃったんでしょうねぇ? 自分でもよくわからないです~」
あははと笑い飛ばして慌てて本に視線を戻す。
一方で横から突き刺さる鋭い視線をビシビシと感じたけれど、そこは一切無視して今度こそ目の前の物語に意識を集中させた。