俺はお前がいいんだよ
「言ったな」
「え? なに、桶川さん怒ってるの?」
「毎日拝めて嬉しいんだろ? 俺の顔。存分に見ろよ」
「いや、その。イケメンはまぶしいので隠れてみるのがいいんですよう」
やばい、怒ってる。
なんで。今までの会話に怒らせる要素なんてあった?
いや、無いとは言わないけど、本気で怒るなんて大人げないよ、桶川さん。
「ふん。決めた。高井戸、お前俺と付き合え」
「え? どこにですか?」
「違う、そういう意味じゃない」
「ぶっ」
フロアの奥のほうから、噴き出すような声が聞こえた。
思えば社内には他の社員もいるのだ。ちらりとデスクスペースのほうを見ると、みんな肩をゆすりながら笑っていた。でも、桶川さんがひと睨みしたらすぐ俯いてしまったけど。
「だーかーらー」
桶川さんは上を向いてため息を吐き出す。
普通、ため息って下向いてするイメージだけどな。この人、いつも人と違う斜め上の動きをして面白い。
「あー。とにかく、お前今日の夜空けとけ」
「えっ、残業ですか」
「ぶははは」
不満をあらわにしてみたら、再び奥のほうから噴き出す声が聞こえた。
桶川さんは血管を浮き上がらせながら「亀田~」と肩を怒らせて行ってしまう。私との話は途中だと思ったんだけど、置いていかれてしまったな。