俺はお前がいいんだよ
でも、桶川さんは本気で聞いているみたい。からかっているような口調だけど、目はいつもよりも真面目だ。
桶川さんも社長に引き抜かれたって話だし、望まれて高待遇で来たんだろう。
世の中そんな人ばかりじゃないんですよ、と言いたいけれど、実際そうである人にそんなこと言っても通じないしなぁ。
「資料、褒めてくれましたし。……何より社長、イケメンですから」
とりあえず、転職の条件の一番どうでもいいことを敢えてピックアップして言ってみたら、ズシリと頭に乗せられた彼の腕に体重がかけられた。
痛い痛い! 縮む。
「なにお前、あいつが好みなの?」
「いやいや。そんな滅相もないことは考えていないです。ただ、イケメンは正義ですよ。どうせ働くならイケメンのいる職場のほうが楽しいじゃないですか。毎日に彩をってやつです。あ、桶川さんも格好いいですよ。黙っていればですけど」
それに、いわゆるイケメンは、私みたいな豆狸には手を出さないから、逆に安心なのだ。ブサメンは普通にしてるだけで勘違いしてくるもん。話しかけただけでいちいち恋愛対象にされるのではたまらない。もう森上さんみたいな人に付きまとわれるのはまっぴらだ。
「ついでみたいに言うな」
急に頭の上が軽くなったかと思うと、桶川さんがぷいっとそっぽを向いてしまう。
なんだぁ? 急に。
あれ、もしかして社長と比べられて嫌だったとか?
「……拗ねてます?」
脇から覗き込むと、桶川さんはさらに顔をそらす。
「うるせぇ。豆狸」
「いや、桶川さんもホント格好いいですよ。イケメン、イケメン」
「軽く扱うな!」
「桶川さんの顔が毎日拝めるなんて嬉しいなぁ」
あんまり拗ねられてるのも面倒くさいので適当に褒めていたら、急に桶川さんが振り向いて、私を押した。
と、座っているコロ付きの椅子が後ろに下がって、受付デスクにぶつかって止まる。
彼はその机に手をつき、まるで私に覆いかぶさるような姿勢になった。