俺はお前がいいんだよ

……そうやって生きてきたわけですよ、私。気が付けば、二十七歳です。
人生で一番あり得ない今の状況を素直に受け入れられるほど、のんきに生きてきてないの。


「……分かりました? 桶川さん」

「つまり、お前がアホってことだな」

「何でですかー!」

「お前に豆狸って言ったそいつに、そんな知識あるわけないだろ。お前のそれは謙遜してるんじゃなくてビビってるだけだ。大方チビで童顔なのを気にして恋愛の舞台に立つ気がないだけじゃないか。それって俺に失礼だと思わねぇの?」


雷に打たれたような衝撃とはこのことだよ。
賢い男はこれだから困る。私のコンプレックスまで言い当てやがったわ。


「で、でもっ。だっておかしいじゃないですか。桶川さんみたいなハイスペックに好かれる理由が全く分からないんですっ。桶川さんは可愛いって言ってくれたけど、私なんてただチビなだけだし。桶川さんが大きいからかわいく見えるだけでしょ」

「お前なぁ……」


呆れたような桶川さんは、大きくため息をひとつつくと、立ち上がった。


「わかった。好きにしろよ。俺、週末帰ってこないから、それまでにどうするか決めておけよ」

「へっ」

「じゃーな」

「えっ、ちょ、ちょっと待ってください。もう夜」

「止めるな。引き留めたら今日、無理やりでも抱くぞ」


鋭い目でそんなこと言われたら、それ以上何も言えるはずもない。
呆れた顔をして出ていく彼の背中を見送るしかなかった。

喧嘩に発展する可能性は考えていた。これでもし別れ話に発展したら出ていかねばならないだろうという覚悟さえしていた。なのに、何で桶川さんが出て行っちゃうわけ? これって私どうしたらいいの?


「桶川さん、どこで寝る気なんですか……!」


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