俺はお前がいいんだよ

最初のほころびは半年前の九月、後輩である渋川(しぶかわ)さんが私のいる営業部に同じ営業事務として配属されてきたことだろう。


『高井戸さんってぇ。森上(もりかみ)さんに気があったりします?』


森上さんとは、部内でも有名なキモメンだった。背が低く太めで……という見た目が少し残念なのに加えて、手帳や小物にアニメキャラのシールをよく貼っている。他にも言動やギャグに昭和のアニメを思わせるものが多いから、まあオタクなんだろうなと思っていた。
女子社員からは敬遠されていて、経理からの伝達も、なぜかいない時間を狙ってくることが多く、私が代理で伝えることが多かった。

たしかに、他の女子社員に比べれば、話す機会は多かっただろう。でもすべて仕事の上でのことだ。まして私は、正直アニメ系には興味がない。


『そんなわけないでしょ。馬鹿言ってないで仕事しよ』

『やだぁ、照れなくても』


渋川さんは、言葉で自分のやりやすい状況を作っていくタイプの女子だ。
大方、自分が対応したくないキモメンの担当を私にやらせるために、種をまいたという感じだったんだろう。

それだけなら、私が先輩権限でなんとでもできた。
まずかったのは、その会話を、森上さん本人が聞いていたことだ。

その日から、彼の猛アタックが始まったのだ。


『僕、高井戸さん可愛いって前から思っていたんだよね。今度電話してもいい?』


胸をやたらに強調するアニメ絵が待ち受けとなっているスマホを見た時点でノーサンキューって感じだった。
でも仕事上ではどうしたって付き合いのある相手だ。気まずくなるのも今後やりにくい。


『すみません、そういうのはちょっと。あー今度部内のみんなで遊びに行きましょうよー』


とにかく私は、のらりくらりとかわして二人きりになるのを避けた。すると相手は、むしろ躍起になって追いかけてくるようになった。

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