俺はお前がいいんだよ

私は昔から男運が良くない。小さいから見くびられるのか、もしくは変な幻想を抱かれるのか。好きになった人とは付き合うまでいっても『なんか思っていたのと違う』と振られるし、寄ってくるのは、粘着質の変な男ばかりだ。

森上さんもそんな感じで、徐々にストーカー化していった。

毎晩の電話。帰り道での待ち伏せ。
今は個人情報が厳しいので、人事以外の人には住所は教えていないのに、日曜に部屋に押しかけられた時にはぞっとして『もう近付かないでください!』と言い、上司に報告もした。

森上さんは社内で厳重注意でも受けたのだろう。部屋には来なくなったけれど、今度は社内で地味にいじめられるようになってしまった。

過剰なほどの資料の作り直し。仕事と言われれば断ることもできない。
確認と称して体を近づけられたら、気持ち悪くて吐きそうだった。

精神的にも追い詰められて、転職を考え始めた頃、顧客として来ていた今の会社の社長とトイレの前でぶつかったのだ。


『ごめん。あー、高井戸さんだっけ。営業事務の』

『はい。深山社長ですよね。失礼しました。いつもお世話になっております』


その頃、営業部長から直接頼まれたという仕事で出入りしている人だった。何度かお茶を持っていったので面識はある。社長自ら来るなんて小さい会社なのかなと印象に残っていた。

社長は文句のつけようのないイケメンで、私はアイドルを見るような気持ちで見ていたので、覚えてもらっていたってだけで、ぽーっとなった。
その日は社長と並んで桶川さんがいたんだけど、同じイケメンでも華は社長のほうにあったから、その時はあまり目に入っていなかった。


『佐々木(ささき)部長から見せてもらったけど、君は資料つくりが上手だね。事務だけさせるなんてもったいないな』


急に褒められて驚いた。

一体部長は何の仕事でこの人たちを呼んだんだろう。
私が作る資料は、営業の皆さんから頼まれた資料の清書や会議の議事録だ。まれに、要領を得ない人のものは作りたい概要だけ聞き取って一から私が作ることもあるけれど、私の名前でその資料が表に出ることはないのに。
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