俺はお前がいいんだよ
*****

 都会には、深夜になろうとも賑やかさを失わない場所はある。

俺が、あのアホ狸への苛立ちから部屋を出てからかれこれ二時間が経過する。
最初は深山の家に泊めてもらおうと電話をかけたのだが、「今日は会食だから忙しい」と冷たくあしらわれた。


「あいつめ……。俺と会社とどっちが大事なんだ」


そうひとりごちては見たけれど、これで俺のほうが大事だと言われたら気持ちが悪いから、会社が大事でいいんだけども。

仕方なく、ひとりで向かったのは、朝方までやっているバーだ。薄暗い店内にはテーブルの周りだけを照らすように細身のペンダントライトがいくつもつけられている。

取り合えず、高井戸の頭が冷えるまで、しばらく時間をつぶすことにしよう。

カウンターに陣取り、マティーニを飲んでいると、女性のふたり組に声をかけられた。髪の長いイケイケ風の女性とショートヘアの仕事出来る系の美人。


「一人ですか? 一緒に飲みません?」


ひとりで飲んでいると、よく声をかけられる。

不思議なもんでひとりの女が声をかけてくるってことはめったにない。女はひとりだと待ちの姿勢に入ることが多い。視線を送っては来るが、こちらが動かなければそのままだ。
逆にふたりで飲んでいる女性たちは、気軽に声をかけてくる。


「いいよ。一杯だけね」


そんなときは特にこだわりもなく一緒に飲む。

別に俺は女嫌いじゃないし、もてはやされるのも好きだ。
そのまま流されない自信はあるし、ひと時を楽しく過ごすのに小一時間女性と話すだけなのだから、別に罪悪を感じたりもしない。

< 51 / 59 >

この作品をシェア

pagetop