俺はお前がいいんだよ

森上さんの相手で疲れていた私は、その言葉に救いを見出し、思わず言ってしまったのだ。


『本当にそう思います? 私、結構使えますよ。雇う気ありませんか?』


今から思えば、会社で言うことではなかったと思う。でもあの時は、本気であの会社から逃げ出したかった。
社長と桶川さんは、完全に目が点になっていて、私はひそかにイケメンが台無しになるからきりっとしろよと思ったものだ。

社長は少し迷ったようだったけど、それより先に桶川さんが動いた。
私の頭をいきなり掴むと、自分のほうに引き寄せて言ったのだ。


『あるよ。おいで』

『おい、恭平』


社長は咎めるような声を出したけど、桶川さんはこともなげに続ける。


『いいじゃん。俺、補佐欲しかったんだよね。作業後の報告書つくりもたるいし、その辺やってくれる子欲しい。直観は大事にしないとさ。ね、社長、即決してよ』

『……うっ。分かった、雇うよ。……いつから来れる?』


本当に即決かよ。と思った。そして、採用条件も何も考えずに、私はそれに飛びついたのだ。


『ここを辞められたらすぐに』


その時は、社長がなぜ私を雇ってくれたのか分からなかったけど、今なら分かる。

桶川さんは株式会社フェンスのブレーンだ。どんなWebサイトの穴も見つける彼の脆弱性診断には定評がある。
その彼の機嫌を損なうことは、そのまま会社の利益の損失に繋がる。
よくわからない事務を雇ってでも彼の機嫌は取っておきたかったに違いない。

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