プレシャス~社長と偽りの蜜月~


記憶を戻す手がかりを実家で見つけようと夕暮れ時の庭を散歩する。


邸宅を入れて1000坪の敷地内。

緑陰の濃い庭は一つ間違えれば迷子になってしまいそうな雰囲気。

「お嬢様、どちらに行かれるのですか?」
浅田さんが庭仕事を終えて、邸宅に戻る所だった。彼は燕尾服姿ではなく作業服を着ていた。

以前は庭師も雇っていたが、会社が傾き始めて、贅沢は出来ず、人員削減の為に邸宅の使用人にも何人か辞めて貰った。

古株の浅田さんは残り、執事と庭師の仕事を兼任していた。

以前よりも、手厚い待遇ではないのに、庭師のような肉体労働を快く引き受けてくれた。私としては、64歳の老体の浅田さんに庭師をさせるのは気が引ける。

「あ、緑の屋根のガゼボまで・・・」


「一人で行けますか?私が同行しましょうか?」

目を瞑れば、雅人の声を勘違いしてしまいそうな声。
親子は声も似るのかしら?


「大丈夫です」


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