プレシャス~社長と偽りの蜜月~
私は仁志と別れたかったのだ・・・


彼を想って一緒に無理心中をしたワケじゃない。私との結婚を強引に申し入れして来た雅人と一緒になって、二人の関係を修復したかったのだ。




失った記憶は私から大切な物を奪った。


記憶があれば、彼を傷つけず、もっと甘い蜜月を過ごせたはずだ。


血溜まりの中に横たわる生気のない雅人の姿が浮かぶ。


私は瞳を大きく見開いて意識を戻した。


「院長に連絡を」


一人の若い女性の看護師が顔を覗き見ていた。


「夫は?雅人は!!?」


上半身に取り付けられた点滴や医療機器でカラダが起こせなかった。


私は精一杯の声で看護師に確かめる。


「今はお腹の赤ちゃんのコトを第一に考えて・・・」と動揺している私を窘めるだけで雅人の容体は教えてくれなかった。






< 79 / 87 >

この作品をシェア

pagetop