恋の人、愛の人。

「ちょっとの間、邪魔するよ?」

「はい、どうぞどうぞ」

改めて明かりを点けた。お店をしてると、普段、缶珈琲とかボトルタイプの珈琲とか飲むのかな…。

「…こんな時間に食べたら、大人にきびとか、できそうだな…」

「えー?気にします?できないでしょ?」

「見てみろ。美肌で、尚且つ色白だろ?」

「…何かしてるんですか?」

陽佑さんがヘアバンドで髪を上げて、美容液を塗ったり、パックなりしている様子を想像した。…ないない。絶対ない。でも美肌は美肌だと思う。

「いや?太陽より月と仲良しなだけ?」

「なるほど、そうですぬ。紫外線に当たらないって肌には強みですね。…大丈夫でしょ、一回きりの事なら。陽佑さんなら、そのくらいのカロリー、一晩で消費してしまいそうな気がする。私なら大人にきびというより身になります」

「フ。そう思っても食べるよな?」

俺は何で消費してると思われてるんだろうね…。イメージ先行か?毎晩、女を抱いているとでも?…。

「はい。迷わず食べますよ?後悔は文字通り、後からです」

「ハハハ。今日だってもう食ってるもんな」

…。

「変わりはないのか?」

「…え?」

「まあ、こうして夜は別に居るから、進展も何も…進みようがないのか…」

ここに居るのはそうなる事を避けてって事だもんな。まあ、一つ屋根の下に居たら、嫌いって訳でもないなら、いつ何が起こるやら…ずるずる始まるのを避ける為って言った方が正しいのか…。

「進展というか…私が難しい。駄目なんだけど…可愛いと思ってしまうと、ちょっと受け入れてしまったりしてしまうんです。それって、自分が上だから、その立場を利用して、気まぐれに対応しているのかも知れないって…思います。向こうはそんなの望んでないって解ってるのに…」

「…最低〜」

掴んでダイレクトに食べていた最後の塊を口に放り込んだ。

「……て、思ってると思うぞ?曖昧は、本気で好きではないんだと、確信させる恐れがあるからな」

「…うん。都合よく接していると思われていると思う…」

だから余計おちゃらけて見せたりして、黒埼君なりに攻め返して来てる…。

「まあ仕方ないのかな…。対象として見ていたのなら、好きだと言われたら迷う事なく嬉しいはずだよな?
だけど梨薫ちゃんがそんな感じではなかった訳だから。思いのないところに不意打ちみたいなもんだからな。でも嫌いって事もない…。
好意的な相手なら、今からそういう感情に変わる可能性だってあるからな〜。それを思って彼は強引な行動に出たんだろ?
少しでも接触する機会が増えれば、変わって行くかも知れないってさ」

思いもしないときにやってくるのが恋ってやつさ…。

「…うん。何だかね…やっぱり私が狡いんだと思う。駄目って言ってみたり、駄目って言いながら…ちょっとそうじゃなかったり…するから。……それって、本当最低で駄目よね」

…おい、…どういう事だよ、それ。もうちょっと聞かせろ。

「自分でも可笑しいんじゃないかと思う…。嫌いじゃなくて…だったら別に構わないじゃないですか、好きになったって。だけど……駄目だって言ってしまう、思って止めようとしてしまう…どうしても」

「年下だからかな…。ブレーキの原因は何となくはそれだろ。いっちゃいけないと思ってしまう」

彼の将来…未来を思ってしまってという事かな…。続くかどうかも…それを考えてしまうから、日々不安を抱えてしまう。恋して終わりならいいけど。結婚したいなら…。

「うん…多分…」

「向こうは言われたくない事だよな。そんな事、言われても、だよ」

「…うん」

「あっちは二十代、こっちは三十代だからって思うかも知れないが、もうそんなに気にならなくなって来るもんだぞ?
彼だってもう三十前だろ?」

「うん、それはそうだけど」

「まあ…誰というのではなく、恋愛する気がないなら、好きって気持ちも芽生えないだろうし、何きっかけで突然加速するかも解らない。
別にさ…恋愛って、焦らしてもいいんだし。そういう面も自然にだって発生するし。それについて来れないようなら、向こうだって大した思いじゃないって事だよ。待たせておけばいいよだよ、硬まるまでは。
あー、まあ、何にしても、結局は自分の気持ち次第だな」

「…うん」

「じゃあ…、俺は帰るから。鍵、ちゃんとしろよ、忘れるなよ。邪魔したな」

「ううん、…おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」

恋なんて、いつ始まってるかなんて…、自分にだってはっきり解らないもんだろ?
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