恋の人、愛の人。
「特別な日は案外普通だよな?」
「…は、い?…え?」
「あ、ごめんごめん、食えなかったな、ほい、スプーン」
前から渡された。
「有り難うございます、大丈夫です」
「盛り上げようとするから特別な日になるんだ」
スプーンを差し込んだ。…解るような、解らないような…深いような、どうなんだか…。
「解り辛いだろ」
「…うん。……あ、…美味しい…凄く美味しい」
無意識に口に入れていた。
「は。…だから旨いんだって。まあ腹が減ってたらなんでも旨いけどな」
「それは抜きとしてもです、ベストな味です。玉子、葱、叉焼、さっと作って…美味しい、好きな味です」
「そんなもんだって。あー、まだ飲むか?」
「あーいえ、今日はいいです。また来週から…表から来ます」
「フ。そうか、じゃあ…、珈琲でも飲むか、食後の」
「はい。有り難うございます。何から何まで」
「サービス過多だよな」
「…すみません」
…何だか、…何だろう。いつも優しいけど、ちょっと構われているような気がする。
珈琲の香り…。
「珈琲はこんなに匂っても大丈夫?」
「まあ、珈琲はな、大丈夫だ…飲み物だからね。…は、い」
「有り難うございます」
「ねえ、陽佑君~。もしかして…彼女は、彼女?」
「ん?いや、違いますよ?」
明らかに手前のカウンターのお客さんが陽佑さんをからかうつもりで聞いた。
「いやに特別扱いだからさ。炒飯、旨そうだし、ハハ、匂いが堪らん」
「すみません。これでも…長い時間掛けてアプローチはしてるつもりなんですけどね…中々に、難攻不落ですよ。手強い」
………え?
「そうなのか…そりゃあ大変だ。…何だよ、さっきから聞いてたら、聞こえたんだけど、それによると他に居そうな話じゃないか?」
…え。
「男性の話でしょ?…俺は本人じゃないんで、彼女の本心までは解りませんよ…」
「だよなぁ…案外妬かせようとしてるのかも知れないし、解んないよねぇ」
チラッと視線を感じた。男を手玉に取ってるとでも思われてるのかな。
「…男はつらいねぇ。女に上手く転がされる。
好きだから振り回されても喜んだりしてな…。
はぁ、俺も便乗する…お代わり…お願い」
…便乗?またチラッとこっちを見られたような気がした。
「はい、同じ物でいいですか?」
「うん、同じでだ。俺は浮気はしない。これ一筋。…ま、他を試さないのがいいのか悪いのか…甘い蜜は危険だからね」
「…承知しました」