恋の人、愛の人。
何だか眠れない…。ギシギシベッドが軋む音ばかり聞いてる。お客さんの言ってたこと…それも頭に残っていた。私は人の目にどう映ってるのか。眠れないのは何も今夜に限ってではないけど。
こんな夜は悪夢とか見たりして。
あれよね。ゔーゔー苦しんで起きると実は足に布団が絡まっていたり…。案外、苦しい夢を見る原因は自分で作っていたりするのよね…。何だか重苦しい夢を見た時は今度から先に確認してみよう。パジャマの裾だって、たくし上がったりして何だか窮屈になってる事もあるかもだし。
稜の夢…後ろ向きに考えるのは止めよう。いい事にはならない…。

「梨薫ちゃん?起きてる?俺、帰るから」

「あ、はい。起きてます。…お疲れ様でした」

ベッドから下りてドアを開けた。

「おぉ、わざわざいいのに」

「起きてましたから」

「そうか。じゃあな。おやすみ。あ、ここの鍵、ちゃんとしろよ」

「うん、解ってます」

…。

「…あの」「あのな」

どうぞと、陽佑さんに譲った。

「さっきの客との話は、気にするなよ?リップサービスだから。かなり酔ってもいたしな」

「あ、うん。解ってます」

「あ、そっちの話は?」

「あー、終わりました」

「あぁ、そういう事か」

客との話の真意、聞きたかったのか…。リップサービス…気にするなよって、どう感じ取ったかな…。解ってますって言ったし…。ま、仕方ない。

「明日…」

「え?」

「場合によったら帰って来ないかも知れないよな?」

「それは…そんな事はないです。戻りますよ」

「そうかな…解んないだろ?いい大人の男女なんだから。あっちは最後の夜だって思ってるだろうしさ」

「…最後って、そんなのは知らない。会社では会うんだし。私は、ご飯でも食べに行く?って聞いたら、作ったご飯の方がいいって言ったから作るだけです」

「理屈はな」

…。

「今夜、ここの最後の泊まりになるかも知れないんだったら、…最後の乾杯でもするか」

「え、もう、アルコールは駄目です…むくみますから」

「フ、大丈夫だ。ちょっと、前に行こうか」

「え、あ、はい」

最後って…帰って来るのに。
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