恋の人、愛の人。
「…眠れないんだろ?牛乳に、オレンジジュース、フランボワーズ…。コンクラーベだ。ほんのちょっとだけ、眠れる魔法の薬、アルコール入りだ」
シェイカーを振り終わるとグラスに注がれ、出された。
「コンクラーベってさ、鍵のかかった部屋って意味なんだってさ。ま、そこまで興味はないか」
へぇ…飲んでみた。爽やかでクリーミー…。
「んー、何だか落ち着きます。静かでここだけが明るいからかな…。ライトの加減て睡眠にも影響するって言いますよね。いつまでも蛍光灯の明かりを点けていたら眠りにも良くないって。
…フ。パジャマでカウンターで…何だかよく解りませんね。あ、ホームバー?みたいな感じ」
陽佑さんもグラスに少しだけウィスキーを入れ、こちら側に出て来て隣に座った。
「一応…何にって訳じゃないけど…」
グラスを寄せられた。
「あっ、私…先に一口飲んじゃった、ごめんなさい」
「フ。別にそんな事いいよ、関係ない。…ハハハ、…面白いよな…梨薫ちゃんは。…もう2年くらいになるのか…、もっとか…全然飽きないね」
「飽きないって…それ、褒められてますか?」
「うん…褒めてるつもり?」
「…疑問形…じゃあ、褒めてないんだ…」
「ものは考えようだろ?んー、色々と、チャーミングだって、言ってるつもりだよ?」
「何だかその言い方だと褒められてはないかな」
「受け取り方の違いだけだよ…。あのさぁ、どっか行きたいって、前に言ってただろ?…」
「え?あー、確かに、言ったというか呟いたというか。色々あったから…」
流石、よく人の話を聞いているのね。そして記憶している。
「まだ今もどこか行きたいか?」
「んー、どこっていうか…ただドライブとか、んー、行き着く先は海が良くて…それで、近くにペンションとかあるなら宿泊して…、早起きして、朝日が昇るのを見ながら海岸を散歩するとか?
基本は、ただ、ぼーっとしたいって事ですね」
「だろうな、…お疲れだからな、あっちこっちで」
あっちこっち…ただの場所移動というより…変に聞こえるな…。
「…行くか?」
「え?今!?」
「フ。ハハハ、はぁ…。なぁ、流石に今の訳ないだろ?自分、明日、仕事だろ?」
「そうですけど…話が出た時って直ぐ行きたくなりませんか?」
「何か?ずる休みでもするつもりか?」
「違いますけど。ノリってあるじゃないですか。結局そこそこの間に実行しなかったら、そのまま流れてしまうってよくあるから」
「解ってるよ、そんな事。……行きたかったら行くか?俺とだけど」
「えー、陽佑さん、お店があるじゃないですか。そういえば、休んでいるとこ、見たことないんですけど」
「だから俺も休みたい、たまにはね?そんな気になった時が休むタイミングだろ?
まあ、その気になったら言ってくれ。タイミングが合わなかったらなしだな」
「うん。その気になったらですね」
「よし。…じゃあ、お開きだ」
「早!…フフフ、はい」
二人ともグッと一気に飲み干した。
「カァーッ。…はぁ。水、水…」
これは私ではない。陽佑さんの悶絶声だ。