恋の人、愛の人。
朝は陽佑さんの作ってくれた朝食を食べ出社した。これも最後になるかもな、なんて言われて送り出してくれた。
「梨薫さ~ん」
黒埼君が追い掛けて来るように走って来た。
「おはよう」
「おはようございます。あの、提案です。今日の買い物はまだですよね?俺、冷蔵庫の中、見たんですけど、それらしいキノコがまだなかった。それで、帰り、一緒に帰りましょうよ。買い物して」
「…え?一緒に?」
一緒には、まずくない?
「はい。買い物袋、重くなっても、俺が持てるし。ね?そうしましょうよ。好きな物だって思いつきで買えるし」
「黒埼君、早く終われるの?」
「はい。頑張ります。…で、これ…番号です、俺の」
ポケットに入れられた。
「何だか今更ですね。とにかくそういう事で。
じゃあ……失礼します」
失礼します?
「おはよう」
え?
「ぶ、部長、おはようございます」
いつから居たんだろう。声の方に振り向いたら部長が立っていた。
「…浮気だな」
「え゙っ?!」
「フ、冗談だよ。私との時間を先に取られてしまった。…ご飯は何を作るんだ?」
「え?」
「差し詰め、黒埼の好きな物って事かな?」
…部長はこの状況をどういう風に思っているのだろう。話は聞いていたという事だ。私達は…私と黒埼君は、いつも警戒心がなさ過ぎるんだわ…。後ろにも目よ。
「あー、羨ましいなぁ、あいつが…」
「部長、あの、」
「ま、私もその内ご馳走になるつもりだけどね。…では行くよ。抱きしめるチャンスも失った」
腕時計をチラッと見た。
「え、は、い」
誰か来たようね。部長の様子が変わった。
そのまま行ってしまった。
何だか話が、黒埼君とも部長とも尻切れとんぼみたいになってしまった。
帰りは黒埼君と一緒ね…。
では、少し遅くまで私も仕事をしてようか。
金曜だしね。別に誰かを待って仕事をしてるとは思わないだろう。
それが黒埼君だとも誰も思わない…。