恋の人、愛の人。
お腹が膨らむ程と言ったら大袈裟だが、完食する程、堪能した。
こんなに食べると、お風呂だってまだ無理だし、デザートも別腹とはいかないわね、と梨薫さんが言った。
梨薫さんは、一人じゃないとつい食べ過ぎてしまうわねって可愛らしく笑った。

プライベートのこんな時間…元々考えられなかった事だといっても大袈裟ではない。
好きな人の部屋で、好きな人にご飯を作って貰って…、風呂にだって入って、連日泊まり続けた。片思いの段階でここまでは中々無い事だ。…一緒にだって寝た。正確には…眠った、の方が誤解がないか。贅沢だよな…有り得ない…。

「黒埼君、少し休憩。後片付けは消化が進んでからにする」

「ハハハ、休んでてくださいよ。片付けは俺がしますから」

「ううん、私がするからいいの。私が、する」

触らないでって、牽制する。

「ハハハ、解りました、じゃあしませんから」

安心して寛いでくださいって言い方も可笑しいけど。ゆっくりしてくれてる方がいい…。


梨薫さんはソファーに居た。クッションを抱えるようにしてテレビを観ていた。
この部屋に居て寛いでいて遅くなって、それでも別の部屋に帰るつもりだろうか。
俺は…まあ、期待しないつもりではいても、もう帰る事を止めてしまわないかって、やっぱりちょっとは期待してしまう。
だからってどうという事ではない…本当だ。
ただ、一晩中、同じ部屋に居られたら、それでいいのにって…。
あわよくばはないって事くらい…解っている。
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