恋の人、愛の人。
…。
どうしたんだ。続きは?…。話し辛いのか。
この、いつもと違う距離感だって、梨薫さんなりに寂しく感じてくれているのかも知れない。
俺が…わざと気を引こうとしてるみたいに、側に座ろうともしてないから。
いつもの俺なら隣に望んで座ってるからな。
俺だって、今日はそんな事したら、余計寂しくなるって解ってるから、無意識にこの距離に居るんだ。
この部屋に二人で帰って来た時から、段々とそんなにおちゃらけられなくなってしまっていた。
買い物をしていた時はまだ良かったかな…。凄く楽しかった。
部屋に帰ってからは、時間が経っていく、その事を凄く感じたし、らしくもなく口数も少なかった…。
「どうしたんですか?」
そっとしておいた方が良かったかな。こっちから話し掛けるって、俺が何かほしい言葉を待ってるとでも思わせてしまったんじゃないのか…。
「黒埼君…あのね…、可愛くて好きっていうのでは駄目?」
「え」
あ…それは、…つまり。…曖昧な断りか?でも好きって…どんな好きなんだ…。
「可愛い以上にはならないって事ですか…」
自分から否定するなんて…はぁ。梨薫さんは頷きはしなかったと思うが。
やっぱり心を深く揺さぶられる程の対象には成りえないという事なのかな。
「いつまでも曖昧で…狡いままでは駄目だと思って…。私の態度は、貴方にとっては、とても中途半端で傷つけていると思うの。…さっきのだって、後ろから腕を回したのだって…目が覚めたら、何だか静かに音を立てないように、気を遣ってて。いいってい言ってたのに片付けてくれてる。
大きな黒埼君が高さの合わないキッチンで背中を丸めるようにしてたから。
それが…何だかキュンとしちゃって…。抱きしめたくなったの。…ごめんね。
…衝動なの。狡いから、お返しだとか言って…。
だって…、雰囲気も出来過ぎてたでしょ?こっちは暗くて、そっちは…キッチンの方だけ明るくて…」
はぁ、何だ、そういう事か。
「別に今のままでいいです」