恋の人、愛の人。


「え?」

「気持ち…ちゃんとしなくちゃってのは、解ります。
梨薫さんにとったら、俺が一方的に言った事です、好きって。だから、今は狡い事をされても、それでいいんです。……はぁ、…良かった。…もう完全否定の話だから、梨薫さんは言い出し辛くて躊躇っているのかと思いました。
全然、今のままでいいです。狡いと思っても気持ちのままに動いているって事でしょ?
ちょっとずつですけど、梨薫さんの事、知らなかった部分も見えて来たモノもあるから。…大丈夫です。さっきみたいな小悪魔的な要素は魅力の一つだと思ってます。ドキドキさせられてますから。
…年下を可愛く見えてしまうというのは解りますから…大丈夫です。そんな事ではめげませんから。俺が人として器のでかい、信頼して貰える人間になっていくしか無い事ですから」

…。

「困らないでください。俺、前向きでしょ?…そうじゃなきゃ、梨薫さんをずーっと思って来れたり出来ないんですよ…」

…え?

「あ、の…黒埼君」

「あー、何か、さっきまでの俺と180度気持ちが変わりました、上がりましたよー。
梨薫さん、エクレアも食べましょう。あ、アイスも。高めの買ったんでしょ?食べましょうよ。
明日も明後日も休みなんだから、少しのカロリー過多は何とかできますって。
俺、お湯沸かします。珈琲、お代わりいるでしょ?」

「黒埼君…」

「ガンガンいきますよ?さぁ、梨薫さん、アイスとかエクレアもティラミスも出してください。
あ、ガンガンいくっていうのは梨薫さんにって事ですよ?
……楽しい、って、思ってくれる気持ちだけでも、今は嬉しい。大丈夫です。嫌いだって言われない限り、俺は…今は、それだけでいい。まだ伝えたばっかりですからね」

…はぁ。

「本当に…前向きね」

「はい。あ、梨薫さん、お風呂、入ります?一緒に」

「え…あ、何言ってるのよ、一人で入りなさい」

「…駄目か…じゃあ、梨薫さんが入ってる時に入って行っちゃおうかな…」

「もう何言ってるのよ。駄目に決まってるでしょ?」

「入りませんよ。だけど、決まってるは、解らないでしょ?先の事は解らない…その内、有り得る事かも知れない…梨薫さん…」

あ、…。これだって今は卑怯なんじゃないの?
私の狡さへの仕返し?

「…安心してください。これ以上は何もしません。それがこの部屋に泊めて貰う時の約束だったから。これが約束違反だって叱られても、気にしません。それはもう今夜で終わりだ…」

やかんを火にかける手を止め、梨薫さんを抱きしめた。…はぁ。なんて自己中で自己満足な俺…。つまり、虚しい独りよがり。

「一緒に寝ます?」

「…だから、それは…」

「駄目でも言ってみなきゃ解らないから、いつも言うんです…。いいって、言うかも知れないじゃないですか」

「もう…」

梨薫さん、好きですよ。俺だってたまには狡いんですから。
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