恋の人、愛の人。
色っぽい気持ちでとか、どちらかに下心があってとか考えた訳ではなく、私は泊まって帰る事にした。
気がつけば、うっかりだ、流れでお風呂に入ってしまいパジャマに着替えていたからだ。
身体が覚えている習慣のようなもので、お風呂から出た黒埼君にどうぞと言われたら、何だかお風呂に入ってしまっていて…化粧も落としたし、もう気分も家の中に居るモードになってしまった。
着替えて帰るという、もう一息頑張る力も出せなくなってしまった。
ただそれだけの事と、…思っている。思ってるけど、どこか一緒に居たいんじゃないかなという思いは隠そうとしている気持ちがある事は解っていた。
きっと、楽しいという感じから変化させたくないとやっぱり思っているからだ。
髪の毛をちゃんと乾かして一度ソファーに座った。
右には黒埼君が居た。
私は下に下りてソファーの前に足を投げ出して座った。
すると黒埼君も下に座った。
…。
「今夜はどうするんですか?」
「え?…何?もう居るわよ?」
「起きてるんですか?DVDとか観て」
「あ、そういう意味…そうね。今夜は確か深夜に映画があったと思う」
「じゃあ、それ観ます?もう始まりますか?そろそろ?」
番組表を表示してみた。
「あ、これ…ですよね」
「あ、うん、それ」
「じゃあ、一応視聴予約しておきましょう」
「…うん」
「これってどんな話ですか?」
「これは…粗筋程度しか知らないけど。えっとね、この俳優さんの演技が好きだから、観てみたい」
「そうなんですね。基本はやっぱりラブストーリーですかね…」
「ううん。確かサスペンス…、ミステリーにラブストーリーはちょっと?くらいだったと思う」
「じゃあ、もろに恐いですかね」
「多分。心理戦があったり、かなり猟奇的だったりだと思う」
「ほう、何だかゾクゾクしますね」
「殺人シーンが残酷よ?映像そのものではなく、多分上手く想像させるようになってるはず」
「へぇ。俺、恐かったら梨薫さんに抱き着いちゃいますから」
「ハハハ、その手は食わないわよ?」
「じゃあ、手を握るかも」
…。
「じゃあ、キスしてしまうかも」
何故、恐かったらキス…。襲う為の前置き?
「…あのね…」
「また俺のですけど、布団、掛けておきましょうね。明かり、消しますよ?いいですよね?」
そう言って、先にキッチンに行き、水を取り出し、戻りながら明かりを消した。
…あ。テレビの明るさだけになってしまった…。
「うわっ、この暗さの中、殺人シーンが出たら、俺、悲鳴あげそう…」
隣に座って腰まで布団を掛けた。