恋の人、愛の人。
陽佑さんの部屋の鍵を取りに帰り、私はバーに向かった。
私もあの部屋から荷物を持って帰って来ないといけない。微妙な時間だ。週末は繁忙だっただろうから、もしかしたら、まだ居るかも知れない。
鍵を開けて、部屋に進んだ。
ドアを開けると陽佑さんがベッドに突っ伏していた。あ、これって…びっくりはしたけど、…ない事ではないよね…。私が使っていなければ、こういう事、当たり前なのかも。
あ、フフフ。このベッドはマットのスプリングが傷むのが早いかも知れない。多分倒れ込むように突っ伏したのよね。…泥酔?ただの爆睡?
「…ん、ん?…よう、……朝帰りか?…」
「あ、はい」
起きてたのかな。
「そっか、悪い…はぁ…ちょっとだけ、休んでた。…ふぅ」
顔だけ向きを変え怠そうにこっちを見た。…なんだか…色っぽい。
「寝る?」
首を振った。
「ううん、大丈夫です。今は睡魔はありませんから、こっちに座ります。ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」
一先ずソファーに腰を下ろそうと思った。
「…いや。…伏せてただけだ。いいよ、遠慮するな…」
あ。通り過ぎようとする腕を掴まれた。すとんと腰が落ちて座ってしまった。
「これは梨薫ちゃんのベッドだ。寝ないなら、膝、貸してよ」
「え?」
陽佑さんが頭を乗せて来た。あ、もう…。枕は抱いている。
「はぁ~、いい感じ…眠ってしまいそう…」
身体の位置を整えるように揺らすと丸くなった。
「はぁ…。忙しかったんですか?」
「んー?そうだな…それなりに…こんなもん?
梨薫ちゃん居ないし、いいかと思って。ちょっと、帰るのが面倒臭くなってさ…ごめん、貸してるのに無断で」
「そんなのはいいです。私だって、居たり居なかったり、解り辛い事してますから」
「あぁ…だよな。…心配させるよ本当……夜、盛り上がっちゃったのか…それで…今か…」
「え?…そんな…、違います。そんなのはないです。テレビの深夜映画を観て、ただ眠れなくて、部屋に居たんです。
見送って戻って来たんです」
「ふ~ん。見送ってって…もう帰ったのか、休みなのに随分早く帰ったもんだな」
何だか自然に頭に手を置き、髪に触れ、撫でていた。
「…あぁー、いい…何だか、本気で眠れそうだ…」
「あ。ごめんなさい、馴れ馴れしく…」
撫でていた手を取られた。…ぁ。
「……俺、今日、ちょっと酔ってるから、…ごめん…」
「大丈夫です」
本当、酔ってるって解る陽佑さんは珍しい。お客さんに沢山勧められたのかな…。あ。
握られていた手、そのまま親指をゆっくり滑らせるようにして甲を何度か撫でられた。こんな事…確かに酔ってるようだ…。ドキドキする。
「…滑らかだな…気持ちいい。はぁ…何だかドキドキする。…やらしい気持ちになりそうだ…」
「そうですか?もっと若い子はツルスベですよ?」
…。
「…フ、ま、そりゃそうだろ、若いんだから」
「フ…うん。そうですね」
「直ぐ起きる。…帰るから。あと…ちょっとだけだ…」
「…はい」
手は握ったままだ。