恋の人、愛の人。
月曜の朝、通路でいつも通り黒埼君が追いついて来た。
「おはようございます、武下さん」
「あ、おはよう」
変わりない。
「ちゃんと彼に部屋に入れて貰えた?」
「ハハハ、大丈夫ですよ。鍵は持ってますから。
あ、これ、部屋の鍵です。有り難うございました」
「…うん」
これは私の部屋の鍵。土曜に部屋に帰ったら、もう、黒埼君の布団は無くなっていた。私が居ない間に来ていたようだ。多分、一度帰って直ぐ来たのだろう。
確か、私は夕方まで居ないような話もしていたから。
私が居たら居たで特にあの日の雰囲気なら取りに来辛いと悩む事もなかっただろうけど。
「おはよう」
「あ、おはようございます」
先に行ってしまった黒埼君の背中を見ていたら声を掛けられた。
「ちょっと来てくれるかな」
「え、は、い…」
部長室に行くという事かしら。
やっぱりそうだった。部長の少し後ろをついて歩いた。
「終わったのかな?」
「え?」
「元の生活に戻ったのかなと思って」
終わったとか…本当によく知っているのよね。
「まあ、はい」
「では、大丈夫かな。今週水曜にラーメンを食べに行こう。それから、日曜の夜は話がしたいので迎えに行く」
「あ、え?は、い」
ラーメンも話も、もう聞いてはいた事。だからこれは日程の通達って事になる?
「あぁ、まただ…命令口調になってすまない。どうしても、つい焦ってしまって。あまりに直ぐだし、そういうことも気を遣うべきだった。これだとただ気忙しくさせるだけだな…」
あ、…。露骨に落ち込んでる。
「君が何もかも落ち着いてからとは思ってはいるんだけど…気が逸ってしまうんだ」
何もかも?…。もう、一段落というか、しましたけど。
「強引な事ばかり言って、して、悪いと思っている。だが…、少しでも会いたいんだ…二人で」