恋の人、愛の人。


部屋の前で別れる時、朝は起こさない、好きにしたらいいよと言われた。散歩も一人がいいならそうしろって事かな。

朝日って何時に昇るものなんだろう。そもそもそれを知らなくては、起きても意味がない。
ちょっと検索した。
〇〇 日の出 時刻…。

5時34分。

…中々に早い。まあ、滅多に見られる事も無いもの。頑張ってみようかな。


アラームを止め、素早く着替えた。朝は夜と違って人に会うかも知れない。私のように朝日を見に、習慣で散歩する人。
海岸を目指して歩いた。

この傾斜を下りて行く階段が…中々、手間取る。
まだ明け切らぬネイビーとオレンジに色分けされた空。この色、好きだ…段々と色の境目、グラデーションの幅が広がって消えて行くのを見ているのも好きだ。

海岸まで下りた。
はぁ…。海からの風が気持ちいい…。何度もゆっくり深呼吸した。

段々と海の端が染まって来た。
…陽が昇る。有り難い。雲は無い。
徐々に明るさが増して来る。…暖かい。太陽って凄い…。
こちらに向かって白いラインが広がり伸びて来る。
…凄い。誰が見ていようがいまいが、毎日こうして陽は昇る…。

「ゲン!」

あ、え、えっ。
凄い勢いで白い塊が駆けて来る。あ、昨日のわんちゃん。
まるで馬が駆けるようにボルゾイは走り抜けた。

「あ、は、あ、ごめんなさいねー、驚かせてしまったわね。まだ誰も居ないと思って油断したわ。大丈夫?ごめんなさいね」

海岸の端まで駆けたわんちゃんは、戻って来ていた。今度は軽く駆けていた。
側に来て止まった。

「はい、よしよし、ゲン、座ってちょうだい」

横に座った。だけど窮屈そう。…大きい。

「毎朝の日課なのよ」

「沢山、運動させてあげないといけないんですよね」

「そうなの。一度に沢山長いと、私が大変だから。朝と二回に分けてるのよ?」

この機会に言っておこう。

「あの、私、昨日、名前を…名乗って挨拶をしたのですが、別に陽佑さんとおつき合いをしている訳ではありません。誤解をさせてはいけないと…ご挨拶を」

「あら、そうだったの?」

「はい。お母様だと伺って、挨拶はしないといけないと思ったものですから。それが何だか…」

「挨拶は社会人としてって事かしら」

「はい、そんな感じでです…」

「そう。それをまたわざわざ言ってくれてるの?」

「え?はい。誤解は良くないと思ったので」

「随分、あやふやな関係なのね、ただのお客さんなのに」

「え?はい…あ、いえ、すみません」

こうなるよね。…二人で来てる訳だから。今朝、こんなに早い時間に会ったという事は、私は昨日からずっと一緒に居たって事にもなる。それでも、陽佑さんと誤解をされたら困るなんて言ってるのだから。…どんな関係だって思うのは当然だ。……あ、ただの…男と女の、とも取れるのか。…。
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