恋の人、愛の人。
「時々、お店に行ってます」
お客です。…愚痴や悩みは聞いて貰ってます。
「男と女なんて、決めた通り、約束通りになんて、…中々いかないものよ?思いもよらない裏切りだってある。なるようにしかならないんだから」
「…え?」
「どんな縁も、会ってしまう運命の中に居る者同士という事かしらね。
遠いところに離れてしまった人とだって、縁があるなら、切れることは無いわ。関わる日も来るもの…」
あ。…。
「あら、陽佑が来たわよ?心配なのかしらね。
じゃあ、私はこれで。
お店のお客さんだったかしら?武下梨薫さん。フフ、じゃあね?」
「…はぁぁ、また会ったのか…」
「はい。ゲンちゃんの運動らしいですね」
あ、私とお母様も会う運命だったのかな。今はもう遠くに見えていた。
「朝日は?見えた?」
「はい。お日様は凄いですね。圧倒されました。…有り難いです」
「俺もベランダから見た」
「え?あっ、そうだ、ベランダから見えるんですね」
「そうだよ?」
「何だか狡いです」
「フ、狡くは無いだろ、水平線から昇る太陽を海岸で見るって、理想通りだっただろ?」
「まあ…イメージがそれで出来上がっていましたから」
「じゃあ、いいじゃん、梨薫ちゃんにはそれが納得の朝日」
「…はい」
「散歩は?しなくていいのか?」
「せっかくだから歩きます。これも中々無いことなので。あ、誤解は誤解だって話しましたから」
「また念押ししたのか?言えば言うほど勘ぐられるのに。あぁ、まあ、別にいいのに…変な話、ついでにされなかったか?」
「いいえ?変な事は言われませんでしたよ?」
「ふ〜ん。朝ご飯は和食にしようと思うんだ。ていうか、もう、ご飯は炊いてるけどな。帰ったら丁度炊き上がってるよ」
「あ、陽佑さん。私も何か手伝います。毎回作って貰ってばっかりだし」
「じゃあ、帰ったら一緒に作ろう」
「はい。それで私は何を」
「魚でも焼いて貰おうかな」
「はい」
「俺はだし巻き玉子でも作るか。あ、味噌汁作る?」
「はい、じゃあ、私が」
ゲンが走って付けた足跡を飛びながら歩いた。
波を避けているつもりがタイミングが合わず足を濡らした。
よろけそうになって支えて貰ったり、流れで手を繋いだり…。これを人が見たら、戯れていると言われるのかも知れない。