恋の人、愛の人。

「…連泊って事は無いんだろ?」

「え、まさか…。約束した覚えはありません」

でも、昨夜来てて…。今夜はどうなんだろう。また来るの?

「そうは言っても解んないよな、こっちは。来られたらそれまでだ」

「はい、…まあ…」

…追い返せるだろうか。

「大きなお世話だけど、その気がないなら泊める事はお勧めしないな」

「そうですね」

「もう少し居るか?」

「え、はい?」

「ちょっと早いけど、今居るお客さんが帰ったら、店、しまうよ。今夜は送って行く。どう?そうしとけば?
帰ってくれとは言えないから客次第だけど。…最悪、閉店時間まで居る事になる場合もあるけど。それでもいいなら送るよ。
じゃあ、もう外のネオン消しとくからさ」

そう言って陽佑さんは外のネオンサインを消しに行くと、ドアのプレートをCLOSEDに返しに行った。

「あ、そうだ…。肝心な事だ。お節介にならない?別に梨薫ちゃんが困ってないなら送らないけど?」

…あ。

「念の為、お願いします…」

…あ、でも。黒埼君が居た場合、陽佑さんと一緒だからといって、じゃあおやすみって陽佑さんが帰ったら、その場は退散してもまた見計らって来たら?結局、同じ事じゃないの?…送って貰うって…意味がない。
ここからの帰り道の心配だけなら送って貰う意味はあるけど。

「居たらどうする、だろ?」

「…あ、はい」

そう、それなんだ。

「何だ君は?て、俺が言う?」

「え?…あ、ちょっとそれ…駄目です。フフ、ハハハ。何だか変に笑ってしまいそうです私が」

「フ、解った、あれか、変なおじさん。だから笑いそうになるんだな。ハハハ。まあ、今はそれは置いといて。
それでだな…言った後は一旦、部屋に梨薫ちゃんと一緒に入って、暫く様子見てから俺が帰る、とか。
だけど直ぐ諦めるかな…」

部屋に陽佑さんが一緒に入る…。それって…駄目でしょ。そんな事まで迷惑かけ過ぎ。
だとしたらやっぱり…。

「大丈夫です。私の事なので、やっぱり一人で帰ります。居たら、は、今夜は無い気がします。人が居れば、遠くからでもぼんやり解ります。
だから今から帰ります。…でも」

…。

「もし居たらここに戻って来ます。それは構わないですか?」

「…あ」

「今、帰って、また戻って来ても、まだ陽佑さん、ここに居ますよね?」

「あ、…ああ居る。居る、居るぞ。だけどそれでいいのか?」

「え?はい、そうします。じゃあ、私、早速帰ってみます」

「お、おぅ。途中も気をつけろよ」

「はい」

俺と部屋に入る事を回避して…居たら一体どうするんだ…。
ここに戻って店に居るつもりか。それ、どういうつもりなんだ…。んん?
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