恋の人、愛の人。
すぐ店を出た。
「あ、お〜い。帰って、居なかったら、大丈夫だったら連絡してくれ」
「解りました、電話しま〜す」
梨薫ちゃんからの連絡待ちか…何だかドキドキするな。
足早に歩きながらドキドキして来た。
もし黒埼君がまた居たとして…それはもう、昨日と同じ言い訳は出来ない。…しないだろう。
言葉ではっきり言われた訳じゃない。
『解りますよね』て言われただけ。
それは好意の事だ。あんな雰囲気での事なのだから、自惚れじゃなくても、そこは間違いないだろう。
…何も、部屋に押しかけて来てまで…。
あ、…考え事をしている場合ではない。
そろそろ部屋に帰りつく。
何とも言えないドキドキ感だ。
ドアの前に人影が見えていたら…、居た。間違いない。誰か立っている。
踵を返した。来た道をまた早足で戻る。
携帯を取り出し、画面を操作する。
陽佑さんをコールした。
出て…。
別に凶悪犯から逃げている訳ではないけど。
…陽佑さん。
通り過ぎた横の路地の奥に気配を感じたと思ったら、パシッと腕を取られて引き込まれた。
…え、…。何?突然過ぎて声も出ない。
この事だ。危ない時なんて、何も出来ない。コールし続けてるのに。陽佑さん、助けて。
「こっちだ」