恋の人、愛の人。


「…あの、部長、時間…会議はいいのですか?」

「ああ。大丈夫だ」

「…本当ですか?」

「抜けた出したものは仕方ない…」

「捜されてるんじゃないですか?」

「……匿ってくれるか?」

「え?…あ、はい。解りました。どうぞ、入ってください」

「ん?」

「匿ってあげます」

「構わないのか?」

「はい」

「…フ、…ではお願いする、お邪魔するよ?」

「…はい。…フフ」

そんな訳ない。部長が無責任な行動を取るはずはない。きっと欠席する理由は言ってあるはずだ。


荷物を置いた。上着を脱いで椅子に掛けた。

「部長、お昼ご飯は…もうお済みですか?」

「ん…会議で食べる予定だったからまだだが」

…あー、きっと美味しいお弁当だったはず。…逃しちゃったなんて、勿体ない。

「では、何か作ります。私もご存知の通り、今、戻ったばっかりなので。
次の予定まで時間はどのくらいありますか?」

手を洗った。

「そうだな…1時間弱かな」

帰る時間を考えたら、そんなには時間がないだろう。ゔ〜ん。

「朝ご飯は何を召し上がりましたか?」

「和食だが?」

ゔ〜ん。…あ、レトルト。…そのままっていうのはいくらなんでもか…。

「部長、カレーは大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。だから私は普通だと…」

「違います。匂いがもし気になるならと聞いたつもりでした。今日の仕事に差し障りがあるとか」

「大丈夫だ」

「では、…15分程時間をください」

「ん、私は大丈夫だ。いいのか?」

「“匿う”中に含まれてます」

「…そうか。すまない」

さあ、急がなくちゃ。えっと…何から…。急ぐけど慌てちゃダメ…。こんなときだから冷静に段取りよくしなくちゃ。

グラタン皿に冷凍してあったご飯をチンして入れた。茄子の入ったミートカレーのレトルトをかけた。冷蔵庫を覗き、ピーマンとズッキーニと、しめじを取り出した。切って上に乗せチーズをかけた。
オーブンに入れ焼き時間を設定して押した。…よし。あとは待つだけよ。

「あ、カレーですけど焼きカレーにしてます」

珈琲を準備した。今日は普通の濃さで入れる事にした。


チン。

「…出来ました。…念のため…失礼します」

グラタン皿とスプーンをテーブルに置き、部長の胸に後ろから手を伸ばした。

「ん?…どうした」

「もしもに備えてです。背中、少し前に、いいですか?」

「あ、うん…」

ボタンを外して上着を後ろに引いた。背中をすかして貰って脱がせた。

「カレーが付いてしまっては大変ですから。あ、食べていてください」

ハンガーを取りに行き、上着を掛けた。珈琲と、お水も置いた。

「あ、手を洗いますよね」

「…あ、うん。そうだな」

前と同じ、キッチンで洗って、手を拭った。


「どうぞ?あ…熱いですね。えーと…あった」

小さい貰い物の団扇があった。

「何か変ですけど時間も余裕がないので、少しこうして冷ましますね」

パタパタと扇いだ。
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