恋の人、愛の人。
「…そうか」
持っていたカップを置きそうになって止めた。抱きしめたくなった。……誰かと一緒、だった。腫れてる事、先に人に言われたようだった。…黒崎…ではない。
稜の話をした夜、私は…帰るべきでは無かったか…。暫く居たら…私が。
少しは支えになれていただろうか。
「あの…部長は稜の事、何でもというか、色々知ってますよね?学生の頃の事とか、社会人になってからの事とか」
「あ、んー、まあ、そうだな。ずっとつき合いはあったから」
会社は違っても頻繁に会っていたよ。
「私、稜とそんな話、してなくて、知らないんです、殆ど何も」
「今はそれでいいんじゃないかな…。二人にとっては会う前の事だ。
例えば、どんな人とつき合っていただとか、気にはなっても知りたくなかったり、…人によっては、何でも知りたい、知りたがりな人も居るけど。
本人と居て、お互いに聞く必要のなかったモノなら、居なくなった今、他人から聞いて知らなくてもいいんじゃないかな…。
隠さなくちゃいけない事があるとは違うよ?そんなモノは稜には無い。できた男だった。
知りたいならもっと先…もう少し、今よりも君が、もっと余裕が出来た時に…、懐かしく思えるようになってからでいいと思うよ。
急に稜の事を一度に詰め込まなくていいような気がする」
…。
「…はぁ、…そうですね。言われてみれば、…はい。その方がいいですね。
全部を悲しい思い出に変えたくないですよね…うん。
では、もっと先になってから聞きたくなったら聞かせてください」
悲壮感ではなく、きっとその方が心から…穏やかな気持ちで話が聞けるだろうと思う。
「解った。何でも聞いてくれ。私が知っている事は何でも話すぞ?
それは駄目だ、って…、止められたりしないからな?」
「…はい、そうですね」
…そう、稜は止めたくてももう居ないから出来ない…。
「ほら…。だから、まだ話さない方がいいだろ…」
部長は持っていた珈琲カップを置いた。
しんみりしてしまった。
「こんな風になってしまっては稜に叱られる。君には決して後ろ向きではなく、前向きな気持ちになって欲しくて、亡くなった事を告げる歳月を空ける事を望んでいたんだから」
「そうですよね、…はい。そうです」
しっかりしなきゃ…。
「明日、黒埼は何時に来るのだろうか」
「…え?はい、いつでもいいって言ってあるので、はっきりは解りません」
「そんな言い方はせず、時間は指定しておいた方が良かったんじゃないのかな。こんな時間に寄っている私が言えたぎりではないが、常識ある時間に来るんだろうな?まさか、夜になって来たりしないだろうな…。
それで、明日一緒にお墓に行きましょうとか言って、その帰り、送って来て流れでここに泊まろうとしないだろうな…。いや、前日から居た方が良くないですかとか言って、明日、来た日から泊まるかも知れない」
「…部長?」
「一緒じゃないとはいえ、何日もここに寝泊まりしてた訳だし。あいつの中では泊まる事はハードルが下がってる気がする…」
…部長。
「そんな事はもうありません。黒埼君だって分別はつけられます」
「解らないからな…君は…」
私?