恋の人、愛の人。
えっ…、あ。…はぁぁぁ。
「俺だよ。一人じゃ、恐くて通れないだろうけど、ここ近道だから。ん?」
「よ、はぁぁ…陽佑さん…もう、……びっくりした…」
はぁ、…襲われるのかと思った。突然腕を引いたのは陽佑さんだった。
「驚かせたか?ごめんごめん。上手くかわせなくて、また部屋に入り込まれたらどうしようもないのかなと思ったらさ…。
ちょっと出て来るって、店のお客さんに声掛けて、急いで追い掛けて来たんだ。
あ、ここ、ここに出るんだ。近いだろ?
だけど、一人じゃこの道は歩かない方がいい、危ないからな。
今みたいに連れ込まれたら誰も気がついてくれない。…アウトだ」
「…はい。はぁ、解ってます、絶対通りませんから」
…恐かった。
「で、居たってことだろ?」
コールしっぱなしの携帯を切った。
それを見て、あ、俺、携帯置いて来てた、悪い。あー本当悪い、とポケットを探りながら陽佑さんが言った。
「あ、はい。ドアの前に人影が見えていたので…」
店に入った。
あ、悪い、ここにあったと、携帯を確認してポケットにしまった。
「…そうか。あ、まあ、取り敢えず座っててよ」
「はい」
陽佑さんは私を座らせると、男性の元に急いだ。
「お客様、すみませんでした。急に店番をお願いしてしまいまして…。本当申し訳ありませんでした」
「いや、大丈夫だよ。誰も来なかったよ」
「あー、本当すみません。お詫びに何か一杯、御馳走させてください。同じ物でよろしいですか?」
「あ、そんなのいい。気は遣わないで。もう、しまいだろ?俺も帰るから。
それより急に飛び出したけど大丈夫だったの?」
「はい、有り難うございます。では、今夜は…御代は頂かないということで、お礼にさせて頂いてよろしいですか?」
「いいからいいから。本の一時のことだったから。次、来た時に遠慮なく奢って貰うよ。
じゃあ、おやすみ」
「お心遣い有り難うございます」
「余程のことだったんだろ?」
「あ、いや…はい」
あ、…。ちらっと梨薫ちゃんを見て言われた。
「フ。じゃあね」
腕をポンとされた。
「お気をつけて、おやすみなさい。有り難うございました」