恋の人、愛の人。
…ふぅ。来たことはなかったけど、本当に公園みたいなところなのね。
区画のメモを黒埼君に書いて貰ったから。
えーっと、こっちね。
あった…、はぁぁ、蔵下家、…稜…居た。
綺麗な新しい墓石…。他にも新しい物がちらちらとあった。それが意味する事は、亡くなってから年月がまだ経っていないという事。
本当に死んじゃったの?…。
あ、…稜…誕生日に亡くなったんだ…。あと二年経ったら同い年になっちゃう。…稜はもう歳を取らないなんて狡いよね…。
持って来た造花を挿した。桜とかすみ草。
桜は稜の誕生花で、かすみ草は稜が好きだった花。
手を合わせた。
…稜、3年と8ヶ月振りだね。本当に居なくなったの?この中に稜の骨があるの?
私ね…怒りに来たんだよ。突然一人にした事。何も話してくれなかった事。稜一人で抱え込ませてしまった事…。私は頼りなかった?
そうだよね。だから話さない方を選んだのよね。
だけど狡いよ…もう会えなくなっちゃったじゃない。…。
本当に…稜が言った通り。もう会うことはない、って。
だけど、…会いに来た。
最近は夢に出てきてくれなくなったね。…あんなにちょくちょく見て…何か言いたげに…してたから。それはこの事だったんだよね。
弟さんにも、晴海さんにも頼んであって。…自分でもそろそろいいかって、言いに来てくれたの?…。夢はそうだったって、そう都合よく思っておくからね…。苦しかったよね、…痛かったよね。
私……、一緒に行かなくてごめんね……稜。
墓石を撫でた。
…あ。今まで晴れていたのに、ポツッ、ポツッと雨粒が石を濡らし始めた。
…稜。
びしょ濡れになる程の雨ではない。本当に少し。粒は直ぐに小さくなって弱い雨になった。霧のような雨。
暫くして雲が切れて陽が差し始めた。
…稜、居るの?何だか…勝手かな。稜が近くに居るような気がした。
…はぁ。もう泣かないって思ったのに。…雨が降っている間に泣けば良かった。
ゔ…ゔ、…稜。ごめん。今だけにするから。もう一回だけ、一杯泣いてもいいよね…。ここだけにするから。
…はぁ。
…強くなるから。また今までみたいに戻るから。
……嘘みたいなの。稜に触る事も叶わないなんて。どこかで誰かと新しい人生を送ってるんじゃないかって、そんな事も思ってたんだよ?
あ、それからね。知ってるかも知れないけど、ストーカーみたいな事もしちゃった。部屋に行ったら女の人が居たから、それも色々考えちゃった。
解約された稜の番号はね、別の、ちょっと口の悪い、でも優しい人が使ってたよ。…本当、いい人だった。リョウ君て言ってた。凄い偶然でしょ?
…私、私なりに生きてるから。大丈夫だよ?…変な事は、考えたりしない。…今更でしょ?そういう事よね?
そんな事にならないように、…まんまと稜にしてやられたんだよね…。
いつでも話し掛けていいよね?うちで独り言みたいに。
聞いてよね?愚痴とか、色々あった事。話したい事、…毎日あるんだよ?
…はぁ、じゃあ、帰るね。
あ……やっぱり。稜?居る?…。虹が出てるよ?