恋の人、愛の人。


みんなにしてみたら普通の休み明け、私は久し振りの出勤だ。
月曜の朝。
黒埼君が声を掛けて来た。

「おはようございます。昨日は有り難うございました」

「おはよう。え?…何、居たの?」

「はい…こっそり見守っていました」

「…本当に?」

「はい、本当です。証拠に、やっぱり雨降りましたね」

「…そう。それから、虹もね」

「はい。虹もかかりました。兄貴はもしかして、何か持ってるんですかね」

「さあ、どうかな」

…夢で見てた事もやっぱり稜の思いかな…。

「梨薫さん、今度ご飯に行きませんか?ご飯はご飯だからいいですよね?」

「考えておく」

…確かにご飯はご飯だけど。黒埼君の気持ちが入った誘いだから…。

「即答は頂けなかったか…まだちょっと早まったかな…」

そういう事でもないんだけど…。

「おはよう」

「あ、おはようございます」

「…おはようございます。じゃあ、俺は先に…」

部長は日曜に来る事はなかった。連絡もなかった。

「少し時間はあるかな。…いいかな」

「はい…」


部長室に連れ立って入った。

「昨日は何も連絡をしなくてすまなかった。しない方がいいと思ったからだ」

…。

「稜の墓には行って来たのだろ?」

「はい、行きました」

「ん。だから、昨日は邪魔をしたくなかった」

「それは、私が稜を思っているから…ですか」

「うん。あれからどっぷり稜と二人だけの世界になっているところに、例え断りのメールであっても、して途切らせてはいけないと思ったからだ」

…冷静な、大人な考えだ。私、そういえば部長のことは全く気にしていなかった。こっちこそ申し訳なかった。

「あの、私こそ…」

「黒埼は配慮したみたいだったな」

「え、はい。でも、霊園には来てたみたいです」

謝るタイミングが…。

「あの」

「うん、それは、心配からだろう。大丈夫だと何度聞かされていても、状況は突然変わるかも知れないと思ったのだろう。
そこに行って稜の墓を目の当たりにして、もしかしたら、おかしな事をするかも知れないと思ったかも知れない。黒埼は誰より近くで思いの深さを知ってる…心配はするよ、好きなんだから」

「部長…」

「…私だって…行ってたくらいだ」

「…え?」

「嘘だと思うか?私が黒埼に負けたくないと、張り合って嘘までついていると思うかな?」

「…そうは思いませんけど」
< 164 / 237 >

この作品をシェア

pagetop