恋の人、愛の人。
みんなにしてみたら普通の休み明け、私は久し振りの出勤だ。
月曜の朝。
黒埼君が声を掛けて来た。
「おはようございます。昨日は有り難うございました」
「おはよう。え?…何、居たの?」
「はい…こっそり見守っていました」
「…本当に?」
「はい、本当です。証拠に、やっぱり雨降りましたね」
「…そう。それから、虹もね」
「はい。虹もかかりました。兄貴はもしかして、何か持ってるんですかね」
「さあ、どうかな」
…夢で見てた事もやっぱり稜の思いかな…。
「梨薫さん、今度ご飯に行きませんか?ご飯はご飯だからいいですよね?」
「考えておく」
…確かにご飯はご飯だけど。黒埼君の気持ちが入った誘いだから…。
「即答は頂けなかったか…まだちょっと早まったかな…」
そういう事でもないんだけど…。
「おはよう」
「あ、おはようございます」
「…おはようございます。じゃあ、俺は先に…」
部長は日曜に来る事はなかった。連絡もなかった。
「少し時間はあるかな。…いいかな」
「はい…」
部長室に連れ立って入った。
「昨日は何も連絡をしなくてすまなかった。しない方がいいと思ったからだ」
…。
「稜の墓には行って来たのだろ?」
「はい、行きました」
「ん。だから、昨日は邪魔をしたくなかった」
「それは、私が稜を思っているから…ですか」
「うん。あれからどっぷり稜と二人だけの世界になっているところに、例え断りのメールであっても、して途切らせてはいけないと思ったからだ」
…冷静な、大人な考えだ。私、そういえば部長のことは全く気にしていなかった。こっちこそ申し訳なかった。
「あの、私こそ…」
「黒埼は配慮したみたいだったな」
「え、はい。でも、霊園には来てたみたいです」
謝るタイミングが…。
「あの」
「うん、それは、心配からだろう。大丈夫だと何度聞かされていても、状況は突然変わるかも知れないと思ったのだろう。
そこに行って稜の墓を目の当たりにして、もしかしたら、おかしな事をするかも知れないと思ったかも知れない。黒埼は誰より近くで思いの深さを知ってる…心配はするよ、好きなんだから」
「部長…」
「…私だって…行ってたくらいだ」
「…え?」
「嘘だと思うか?私が黒埼に負けたくないと、張り合って嘘までついていると思うかな?」
「…そうは思いませんけど」