恋の人、愛の人。


「…どう思ってる?私の事」

あ、…今度は真面目な話?

「どう思えるかっていう程、まだ知りません」

「知れば変わるかな?」

「はい、それは、まあ、はい。…浅い話ですが…素敵な人だと、見た雰囲気や声で、さっきも言いましたが、紳士的な感じ、だと、そのくらいにしか、外見くらいしか解りませんから」

理屈はそうだ。

「黒埼の事は知っているのか…」

「黒埼君は、ずっと同じ課で一緒ですから、大体把握出来ている気はします。大体が基本正直な子なので、解りやすいと言えば解りやすいかも知れません。勿論、プライベートでのつき合いはありませんから、全てを知っているとは言ってはいけないし言えませんが。
裏表は無いように、私は思ってますけど」

「そうか」

その上で、これから発展して行きそうなのか、とは、聞けない。立ち入った話だ。
どう思うのも、それぞれが個人の感情だ。

「金曜の夜…私が呆れて帰ったと思ったのか…」

…あ、今度は金曜に戻った。

「…はい」

だってあの感じではそれ以外考えられない。

「…深刻な状況なのに、帰れなくなると思ったからだ。…はぁ、部屋に入ってしまったのがいけなかった。いや、部屋に寄らなければ良かったんだ。…いや、…そもそも、昼間に寄って、あんなに……だから、メールもしたりして…」

「部長?…」

「…ん。つまり、夜、部屋に入ってしまったから、無理矢理帰ったんだ。早い内から抱きしめてしまいたいと思った。…抑えた。
またさりげなく上着を着せて貰ったり、靴べらを渡されたりして見送られたら、その場で抱きしめるどころか、部屋の中に連れ戻していた。
そうしたくなりそうだった」

ぁ…そういう、事、だったんだ…。人間らしい…。

「好きだと言って貰う事ばかりが惚れるポイントではない。さりげなく気配りが出来たり、思いやりがあったり、安らげるという事も惹かれる要素だ。それが無理の無い行為なら私はその女性をいい女だと思ってしまう。
ただ好きだの嫌いだのとは、ちょっと違うんだ。
嫌な面があっても許せるとか、得手不得手を補い合えるとか、そういった事も大事なんだ。
人として引っくるめて考えた場合、その上で好きかって事だ。あ、俺は元々何の話をしていたんだ…。
…あ。だから、襲わない自信が無かったから帰ったんだ。合ってるか?」

合ってるかは部長にしか解らないけど。…部長、言葉遣い…俺って言ってる。

「話の筋は外れてないと思います」

「呆れたというより、俺ではない誰かに甘えた…そんな事をしたと聞けば…、まずやきもちを妬くし、何かありはしなかったかと不安にも心配にもなるだろ。ただ…、言っても俺は、まだそんな立場に無いから強く言えもしないという事だ…。
はぁ…誰かに甘えたと聞かされたら…妬くよ。そんな、委ねられる人が居る…。それから…。
辛そうにしてるのを目の前で見たら強く抱きしめたくなった、…何度もだ」

部長…。随分さらけ出すのですね。それはやっぱり自分を知って欲しいから…。
甘えるなら自分に…という事かな。…好きなら当然の感情よね。
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