恋の人、愛の人。
ある朝の事だ。
いつものように、何だかわーわーしながら一緒になって部屋を出て会社に向かっていた。
こうして並んで歩いている事、何とも思っていなかった。
警戒心が薄れていた。油断したんだ。
うっかり話をしていた。
「部屋はどう?程よく近くていい感じのは急には難しそう?」
「別に、一緒に居る事を引き延ばそうとか、わざとじゃないんですよ?贅沢に条件をつけている訳じゃないけど、中々です。…ちゃんと探してはいるんですけどね」
「知ってる。仕事の合間にも不動産屋さん見て回ってるでしょ」
「はい。一応、何か良さそうな部屋の空きが出来たら、そこ、即入るんで連絡くださいとか、取り敢えず、色々手は打ってあるんですけど」
「時期もあるのかな。今は人があまり動かないとか。新築では…無理か」
「長くなったら、あいつ、案外、終わったりして」
「あ、“元彼”?」
「は。まあ、その元彼んとこです」
「もう危ない兆候があるの?」
「というか、節操無しから、落ち着いて来たって感じです」
どんだけの節操なし?…ん、どんな人なのかな、その元同居人。…。
「…まあ何だか微妙な話ね」
「まあそうですね、男女の事ですから」
「いっその事、一緒に住もうとは思わないのかしら。あ、その彼女の方とよ?」
「それは流石に…まだそういう気持ちにはならないんじゃないですかね。一緒になろうとか、思うにもまだつき合いが浅い、早いだろうし。詳しく知らないけど、ただのつき合いだって考えてるかも知れないし」
「そうか…でも、その彼女に限らず、これからは結婚前提につき合うとかもありでしょ?
いくつくらいの人?黒埼君と歳は同じくらいなの?」
「年齢は俺より一つ上です」
じゃあ28か…。いい年齢じゃない。今からもっとって感じ。だから、まだって思えば、女性とつき合うのも結婚は考えないか…、まだまだしなくていい年齢だしな…。男の人だもんね。30前に一度焦る女とは違うよね。
「…あのー、おはようございます」
「あ、桃子ちゃん、おはよう」
「あ、じゃあ、俺は先に行きます」
「あ、うん」
…。あれ、桃子ちゃん、どうかしたのかな。
「はぁ…梨薫さんが羨ましいです」
「え?羨ましい?私が?」
「はい…。黒埼さん、梨薫さんとはよく話してるから…」
あ。
「そうね。…楽なんじゃないの?ほら、年上だから。あ、え、もしかして?」
「……はい」
少しはにかんで俯いた。…そうなんだ…。桃子ちゃんは黒埼君の事が好きなのか。…そうなんだ…そうなると、何だか私…。困った事になったわね。
「…あの、…梨薫さんは黒埼さんと…同棲してるんですか?」
…。え?
「え゙?!」
「…あの…私、つき合ってるって知らなかったけど、…別れるんですか?」
「ぇえ゙?!」