恋の人、愛の人。


「梨薫さん、大丈夫ですか?」

ボックスティッシュを渡してくれた。

「大丈夫…ズー」

「そんなに泣いたら明日…」

「うん…解ってるから」

ティッシュを膝に、取り出しては拭いていた。

弟は、兄を亡くし、残されたその彼女に、どうしても好きだと言えなかった。彼女は兄を忘れられない、ずっと愛している。暫く気持ちは言わないと決め、そっと支え続ける事を決めた。
彼女が兄以外を愛さないと解っていたから。そんな彼女だからこそ余計好きだった。
自分もこの先、彼女以外は好きになる人はいないと思った。
世の中は意地悪だ。兄の親友、といっても兄よりも年上の男性。包容力のあるその男性が現れ、彼女はその人のもとに行く事にする。勿論、愛しているのはずっと兄だという事をその男性も受け止めての事だ。

「…グス、こんな事って…あるのって。この親友だっていう男性も、弟も、彼女を思う思い方は同じなのに…」

「…違いはあります。
親友は他人、弟は当然ですが好きな人の身内です。しかも失った彼に一番近い人。
面影も…ふとした仕草や、声、言葉遣いも、似ているところがあり過ぎる…それが辛いんだと思います。弟を見ると兄を思い出してしまう。重ねてしまうんです。それから、年齢です。
もし、この弟が弟ではなく、兄よりも上の兄弟だったら。
親友の男性と弟は一回りも年齢が違います。比べてはいけないけど、どうしても…人間の厚みというか、深みが違います。仕方のない事です。彼女には安らぎが必要だ。
悲しいですが…直接口に出さなくても、弟を頼りないと思ったかも知れない…。
逆に親友の男性には、盤石の安心感を覚えたのかも知れない。そこはどうにもならない事です。
これは成るべくしてなった結果ですよ。…ん?
…梨薫さん?…」

こつんと肩に頭が当たり、すーっと滑るように胸に落ちて来た。あ。早寝の癖がついてしまったからなのかな…フ。
眠ってしまったんだ。
さっき迄あんなに泣いていたのに…。
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