恋の人、愛の人。

こんな、気を許したような状況…。普通に彼女だよ…。いや、自分に都合よく考え過ぎだ。ただ寝落ちしただけの事。危険なんて感じてないからこうなるんだ。はぁ、……俺の話が長過ぎたか。…どこまで聞いてくれてたんだろう。

もう、濡れた髪の水分も取れているだろ。
頭に巻かれたままのタオルを取った。指を通して軽く整えた。湿っているのはまだ少し湿っていた。…これだと癖がついてしまうかもな…。

少しの時間ならいいですよね…。
もう一度、肩を寄せるようにして胸に抱いた。寝ていることをいいことに、狡い事をしている。そう思ったら…ドキドキした。…はぁ。
俺の心臓の音、煩くないだろうか。

抱えるようにしていた膝をソファーの上に伸ばさせた。
膝枕に近い形で寝かせたが、上半身は向き合うように抱いた。

こんな状態…何もしないと我慢しても……抱きしめたい。抱きしめて寝るくらいしたいと思ってしまいますよ…はぁ。…俺は男、梨薫さんが好きなんだから。

俺も映画同様、年下だ。やっぱり頼りなく見えてるんだろうな…。そんなに若いって言われる程の年齢でもなくなった。嫌いじゃないのに受け入れてくれないのって、そういう部分もあるよな。
ずっと一緒だと、不思議と出会った年齢の感覚のままで思われて…、初めから年下の子…そう思われたら、もう駄目なのか?どこかの年上と比べられたら…映画と同じ事になってしまうかも知れない。
理不尽だと思うけど簡単に掠われてしまう。どうにも出来ないじゃないか。
ちょこちょこちょっかいを出すのも子供っぽいと思われてるし…。だからって寡黙に構えたところで、俺にはアンバランスだ。
はぁぁ、なす術がない…という事か。梨薫さんにだって上手くあしらわれてる感じもする。アイスの事だって、こっちにしてみたら…堪らない悪戯だ…。


……ん?これは…何だ、よ…。
映画の本編部分は終わっていた。
それは静かに始まった。

『梨薫、君がこれを見る事があるだろうか。何も言ってないからな。消されたかも知れないなぁ』

あ……何だよ、…こ、れ。

『もう会うことはない、なんて、いきなり、なんて酷い言葉を梨薫に残しているのか。酷すぎて胸が苦しい』

…はぁぁ…何だよ、こんなモノ…。止めてしまおうかと思った。…クソッ。
梨薫さんを動かしたくなくて…テーブルのリモコンに上手く手が届かなかった。

『往生際が悪くて、一日、一日と、その日を延ばし続けた。だけど、もう限界だ、ギリギリになった。梨薫に隠す事が難しくなったからだ』

なんでこんなモノを残しているんだ…。もういい…終われ。

『梨薫…。俺は君の前からいなくなる。それは永遠にだ』

あ、何言って…馬鹿野郎…。こんなモノ、今更梨薫さんが見たらどうなると思う…。

『俺は病気で死ぬ。進行が早くて、もう何も…、手の施しようがないんだ。結局、格好よく去れなかったな。こんなモノを残しているんだから。だけど、これで君の疑問は…』

ん゛ー。やっとリモコンを掴んだ、…止めた。…はぁ。
心臓がバクバクする。
梨薫さんは寝息をたてていた。
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