恋の人、愛の人。
梨薫さんをベッドに運んだ。そっと下ろして布団を掛けた。目を覚ます事なく、眠っていた。
…はぁ。
リビングに戻り、DVDを取り出し鞄に入れた。
多分、梨薫さんはこういった物にあまり詳しくないだろうと思う。…映画の部分だけを観て、観終わって、次の物を録画しようと全消去していたら…。目に触れなかったモノだ。
今まで観なかった事、偶然にも消えなかったのは何か執念か…。
別のDVDに録ったりせず、空きの部分に録ったところが…。言いたかったけど言えなかった…でも、突然別れを告げた事には訳があったって…言いたかったんだよ、だけど…面と向かってしまったら…思いが溢れてしまう。言わずに別れた方がいい…。
…勝手にこんな事はしてはいけない。それは誰に言われなくても解ってる。だけど、今更、本人の言葉で…こんなことを知って、また辛い気持ちになる必要はないと思う。
本来、こんなモノが存在しなければ、別れは別れとしてもう終わっているんだ。いきなり告げられた終わりに、長い時間を掛けて折り合いをつけたんだから…。
これは俺が持っておく。消す事はしない。ただ、責任を持って預かっておく。今は見せられない。
居なくなる事の理由…言って、知って欲しかった。その苦しい気持ちは解るんだ…。本当は自分の口から言いたかったって。
ふぅ…DVDに録画された映画の部分は新しい別の物に録り直して戻しておこう。ディスクが代わっていてもきっと気づきはしないだろう。
朝、リビングに黒埼君の姿はなかった。もう出た後なのか、珍しく居なかった。
んー、ベッドで目が覚めたという事は、私が寝落ちして、黒埼君が運んでくれたとしか思えない。
リビングの隅に布団は綺麗に袋にしまわれていた。
…はぁ。それにしても、早過ぎる出勤じゃない?
早出かな?…何かある日だったのかも知れない。居ても居なくても、特に干渉はしない約束だし。
出勤してみると、会社には普通に居た。
その日、私は久しぶりに陽佑さんの店に寄った。
「こんばんは」
「いらっしゃい、…ご無沙汰だな」
「…はい」
あれ程、困って相談していた会社の人間を泊めている事を話しに来た。