恋の人、愛の人。


気不味い…。

「連日、通って来てるかと思ったら、ぱたっと来なくなったりして…元気だったのか?」

「…うん。すみません…あの、その事で」

「小悪魔だな…」

無意識に人の気をひく事が身についているとも取れる…。

「え?」

「いや、…それで?片は付いたのか?だから来たんだろ?」

「…はい」

…陽佑さんはお見通しだ。

「で?どう片が付いたんだ?」

「何て言うか…散々どうしようかなんて言って、陽佑さんに迷惑をかけていたのに。その後輩を…泊めています」

「あの日からか」

あの日…大丈夫だとメールした日だ。

「…はい」

陽佑さん、あまり驚かない。呆れられたかな。

「居なかったから大丈夫って事だったのに、実はそうじゃなくて居たって事か。
メールの文言は入れ間違いだったのか?
それでその後…連絡も出来ない、どうしようもない状況にされたのか。それは納得づくの事か。なし崩し的になのか。抵抗はしなかったのか。それで」

え、それって…。違う。誤解している。

「ちょっと、ちょっと待ってください…。誤解っぽいところがあります。
決して何かされたとか、その結果とかではないです」

「はぁ…もう…悪い。勝手に暴走した…。泊めるつもりは端からないのに、そもそも嫌ってるって感じの相手でもなさそうだったから…襲われて…それをきっかけに情が湧いたのかと思ったんだ。だから、ここにも来なくなったのかと思った。もう来ないくらいのな。
あの日、大丈夫だったら連絡は来ないと思っていた。だから、大丈夫だと連絡があった事、俺は、変に裏読みしたんだ。
もう良くなったから、自分に関わって欲しくないって俺に言いたいのか、とかさ」

「そんな…それは違います。その時点では文面通り居なくて、大丈夫で、何も問題がなかったんです。メールの言葉は間違いじゃないです。大丈夫だったけど連絡したんです」

「じゃあ、問題はいつ勃発したんだ」

「朝です。…朝、ドアを開けたら中々開かなくて、覗いたら…座って居ました。私、帰ってから部屋の明かりを点けずに居たんです。そうしておけば居ないと思うだろうと、暗くして部屋に居たんです。
だから、後から来た黒埼君は、まだ帰っていないと思い込んで、ドアの前にずっと座り込んでいたんだと思います」

黒埼君ていうんだ…。

「上手くいったと思った事が徒になったって事か」

「…はい、そういう事になりますかね」

「梨薫ちゃんが帰って来ないから、また心配で朝まで居たってそいつが言った」

「…はい」

「その黒埼君?てやつの事、悪く言うつもりはないけど…、物は言いようだ、とも言える。
何としても…梨薫ちゃんをどうにかしたいと思ってる人間なんだから…。
まあ、帰って来ないと心配はするだろうけどな。それは嘘ではないと思うが」

「…はい。悪い子ではないので」

悪い子ねぇ…。子供扱いじゃないか…。そんな年齢ではないんだぞ。男としては目茶苦茶盛んな年齢なんだからな…。
まあそこは言葉の綾って事か。

「それで、特に梨薫ちゃんに不都合がないから泊めてるんだろ?
迷惑にも思ってないんなら、これでめでたしめでたしだよな」

…。
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